ニュースで原油価格が上がったと聞いても、その日に合材の単価が動くわけではない。動くのは数か月後で、たいていは工事が始まったあとだ。この時間差が、施工管理にとっては一番やっかいなところにある。
一般財団法人 建設物価調査会は2026年5月から、毎月「中東情勢緊迫化に伴う建設資材価格・需給動向」というリポートを出し続けている。最新の2026年8月18日版も見立ては同じで、海上輸送のリスクと原油高を受けて、石油系原料への依存度が高い資材──塗料用シンナー、アスファルト混合物、防水材、断熱材など──で供給不安と値上がりが表に出てきている、と整理している(月刊『建設物価』2026年9月号・東京基準)。
数字で見る──合材は433都市で平均2,302円/t上がった
同じ調査会が2026年6月18日に公表したリポートは、アスファルト系に絞って価格を追いかけている。
| 品目 | 動き |
|---|---|
| アスファルト混合物(合材) | Web建設物価 2026年6月号・7月号で、2026年1月号比・433都市で平均2,302円/t 上伸。各地で過去最高値を更新 |
| ストレートアスファルト(東京) | 2026年6月号で 142,000円/t。過去最高水準 |
| 再生アスファルト混合物(密粒度13・東京14区) | 2022年1月号 → 2026年7月号の比較で 約49%上昇。ストアス高騰に加え、輸送コストや人件費等の上昇も乗る |
リポートは、原油価格とストアス価格は概ね連動するもののタイムラグが存在すると説明している。2022年前半に原油が110ドル/バレルを超えたとき、ストアスが急騰したのは同年7〜8月だった。今回についても同リポートは、2025年後半から2026年にかけて中東情勢の影響で原油が再び上昇し、ストアスが2026年6月号で過去最高水準に達した、という経過を示している。
需給側は逆方向に動いている。合材の需要は2013年をピークに2025年で約32%減、ストアスは2012年から2025年で約57%減。市場が縮むなかでメーカー側は仕入・輸送コストの上昇分を販売価格へ転嫁する交渉を強め、その結果として掲載価格が過去最高値を更新した、というのがリポートの読み筋である。
国交省が出した通知を、日付順に並べてみる
国土交通省は「中東情勢に伴う建設産業分野における対応状況について」というページで、令和8年に発出した通知を一覧にしている(以下は表内で名称を一部省略している。正式名称は原典を参照)。
| 日付(令和8年) | 通知 | あて先 |
|---|---|---|
| 3月27日 | 中東情勢の変化等による原材料価格・エネルギーコストの上昇を踏まえた適切な価格転嫁等に関する中小受託事業者に対する配慮について | 建設業団体の長/主要民間団体の長 |
| 3月31日 | 中東情勢の変化等による原材料費、エネルギーコスト等の取引価格を反映した適正な請負代金の設定や適正な工期の確保について(要請) | 各省各庁及び特殊法人/地方公共団体 |
| 4月3日・13日 | 【経産省通知】トルエン等を原料とするシンナーを含む溶剤等の安定供給確保に向けた御協力について(要請) | ― |
| 4月8日・14日 | 溶剤等の安定的な供給確保について(周知及び依頼) | ― |
| 4月17日 | 単品スライド条項の運用について | 各省庁及び特殊法人/地方公共団体 |
| 4月30日 | 建設資材の安定供給に向けたご協力について(周知及び依頼) | ― |
| 5月27日 | 建設業における中東情勢の変化等による原材料・エネルギーコストの高騰等を踏まえた適切な価格転嫁等の対応について/取引価格を反映した適正な請負代金の設定や適正な工期の確保について(要請) | 建設業団体等/各省各庁等・地方公共団体 |
前後の通知が「配慮」「要請」「周知及び依頼」という呼びかけであるのに対し、4月17日の1本だけは既存の契約条項の運用に踏み込んでいる。つまり、いま現場が使える道具は新しい制度ではなく、もともと契約書に書いてある条項だということになる。
契約書第26条に入っている3つの装置
工事請負契約書第26条(旧・第25条)には、賃金や物価の変動で請負代金額を変更するための規定が3つ入っている。国交省はこれを全体スライド・単品スライド・インフレスライドとして整理し、全体とインフレには運用マニュアル(暫定版)、単品には運用改定の通知を出している。長野県のまとめは、3条項の発動事由を条文どおりに並べていて分かりやすい。
本誌でも6月16日と6月28日にこの3条項を取り上げている。ここでは要件を一覧で確認したうえで、そのあとに出てきた価格データと、次節で扱う単品スライドの運用の中身に軸足を置く。
| 全体スライド | 単品スライド | インフレスライド | |
|---|---|---|---|
| 条項 | 第26条 第1〜4項 | 第26条 第5項 | 第26条 第6項 |
| 発動事由 | 請負締結の日から12月を経過した後、日本国内における賃金水準又は物価水準の変動により請負代金額が不適当となったとき | 特別な要因により工期内に主要な工事材料の価格に著しい変動が生じ、請負代金額が不適当となったとき | 予期することのできない特別の事情により、工期内に日本国内において急激なインフレーション又はデフレーションを生じ、請負代金額が著しく不適当となったとき |
| 受注者の負担 | 残工事金額の1.5% | 対象工事費の1% | 残工事金額の1% |
負担割合は、発注者ごとの運用通知に計算式として書かれている。国交省の運用に準拠する千葉県の場合、全体スライドは S=[P2−P1−(P1×15/1000)]、インフレスライドは S増=[P2−P1−(P1×1/100)]。P1が変動前の残工事金額、P2が変動後の同額なので、「増えた額から残工事金額の1.5%(または1%)を差し引いた残り」が契約変更額になる、という形である。運用は発注者ごとに定められるので、自分の工事の発注者がどの通知に拠っているかは確認しておきたい。
見落としやすいのは3つ目の条件だ。全体スライドもインフレスライドも、残工期が原則2か月以上ある工事が対象になる。単価が上がりきった工期末に気づいても、その工事ではもう間に合わない。
なお千葉県のインフレスライド運用では、全体スライドで変更した後でもインフレスライドを請求でき、インフレスライドの後でも単品スライドを請求できる、と併用が明記されている。1回使ったら終わり、ではない。
単品スライドは「どの単価を使えるか」が変わった
合材の値上がりに直接効くのは単品スライドである。国交省は、工事材料の価格増加分のうち対象工事費の1%を超える額を発注者が負担するとしている(材料価格が下がった場合は、1%を超える減額分を発注者が受注者に請求する)。
令和4年6月17日の運用改定で変わったのは、その増加分を計算するときの単価の採り方だ。それまでは「実際の購入価格」と「購入した月の物価資料の単価」を比べ、安いほうを使って請負代金額を変更していた。改定後は、購入価格が適当であると示す証明書類を提出した場合には、実際の購入価格のほうが高くても、その単価を用いて請負代金額を変更してよいことになった。
改定ではほかに2点が加わっている。鋼橋上部工工事特有の商慣行により「実際の購入価格」を示せない場合は、購入時期を証明できれば「購入した月の物価資料の単価」を使える扱い。そして、年度ごとに完済部分検査を行う複数年にまたがる維持工事では、各年度末に単品スライド条項を適用することも可とする扱いである。
試験ではこう問われる
出題側がこの条文を扱うときの入口は、ほぼ決まって「12月」という数字である。
令和7年の1級舗装(問5)は、"公共工事標準契約約款"に関する記述から誤りを選ばせる問題だが、その選択肢のひとつがこれだ。
発注者又は受注者は、工期内で請負契約締結の日から十二箇月を経過した後に日本国内における賃金水準又は物価水準の変動により請負代金が不適当となったと認めたときは、相手方に対して請負代金額の変更を請求することができる。
これは正しい記述で、誤りは別の選択肢(工事用地の確保を受注者の義務としたもの)だった。同じ令和7年の1級建築(午前 No.20)でも、ほぼ同一の文が正しい選択肢として置かれている。つまりこの条文は、引っかけの材料ではなく「知っていて当然の前提」として使われている。ここを迷うと、消去法そのものが成立しない。
覚える数字は多くない。全体スライドは「12月経過」+受注者負担1.5%、単品は負担1%、インフレは負担1%。そして残工期2か月以上が要件になるのは全体とインフレで、単品には課されていない。あとは条項番号(第1〜4項/第5項/第6項)とセットにしておけば、組合せを問う形で出されても外さない。
現場ではこう効く
まず「効く工事かどうか」を見極める。 単品スライドは対象工事費の1%を超えた分が発注者負担になる。合材が工事費に占める構成比が大きい舗装工事は、材料単価の上昇が対象工事費の1%に達しやすい側にある。ただし到達するかどうかは工事ごとの積算次第で、資材の種類が分散している工事では、値上がりを実感していても1%に届かないことがある。
単価を決めるのは、手元の証憑である。 改定後の単品スライドでは、購入価格が適当であると示す証明書類を出せるかどうかで、使える単価が変わる。出せなければ従来どおり物価資料の単価と比べられ、実際に高く買った分は乗り切らない。納品書・請求書・注文書を、いつ・どの単価で買ったかが追える形で残しておく──これは請求する日ではなく、買った日にしかできない仕事である。
工程表に2つの印を打っておく。 契約日から12か月後と、工期末の2か月前。長期工事なら、この2点をあらかじめ工程表に落としておくだけで、「請求できたのに気づかなかった」という取りこぼしは防げる。
民間工事は約款から確認する。 ここまでは公共工事の枠組みの話で、民間工事ではそもそも契約書にスライド条項があるかどうかから始まる。国交省の3月27日・5月27日の通知が「主要民間団体の長あて」にも発出されているとおり、価格転嫁は公共工事だけの論点ではない。
原油相場そのものは現場でどうにかできる話ではない。しかし、上がった分をどう請負代金へ反映させるかは、契約書の条文と手元の証憑で決まる。使えるかどうかを分けるのは、たいてい「2か月前に気づいたか」である。
出典
- 一般財団法人 建設物価調査会|中東情勢緊迫化に伴う建設資材価格・需給動向(2026年8月18日掲載)
- 一般財団法人 建設物価調査会|ストアス・アスファルト混合物(合材)が大幅上伸、各地で過去最高値を更新!(2026年6月18日掲載)
- 国土交通省|中東情勢に伴う建設産業分野における対応状況について
- 国土交通省|各種スライド条項(全体スライド、単品スライド、インフレスライド)について
- 国土交通省|工事請負契約書第26条第5項(単品スライド条項)の運用改定について
- 長野県|工事請負契約におけるスライド条項の運用について
- 千葉県|全体スライド条項(建設工事請負契約書第26条第1項~第4項)
- 千葉県|インフレスライド条項(建設工事請負契約書第26条第6項)

