「国土強靱化」という言葉は、いまや建設業で働く人なら誰もが耳にする。だがその中身が2026年度(令和8年度)から大きく変わったことは、意外と知られていない。これまで数年ごとの「時限の対策」だった国土強靱化が、**法律に根拠を持つ「計画」**へと格上げされ、その第1次計画が今年度からスタートした。5年間の事業規模は20兆円強。受験生にも現場担当者にも効くこの制度転換を、施工管理の視点で読み解く。
背景:3か年→5か年→ついに「法定の中期計画」へ
国土強靱化の予算措置は、これまで期間を区切った特別の枠で進められてきた。2018〜2020年度の「3か年緊急対策」、2021〜2025年度(令和3〜7年度)の「5か年加速化対策」がそれだ。防災・減災の効果は上がった一方で、あくまで時限措置のため「5年経てば途切れるかもしれない」という不安が、計画的な人材確保や設備投資の足かせになっていた。
この構造を変えたのが、2023年の改正国土強靱化基本法である。改正で新たに位置づけられたのが「国土強靱化実施中期計画」だ。従来は法律上の裏づけが弱かった中期の施策群に、明確な法的根拠を与えた。これを受けて政府は2025年6月6日に「第1次国土強靱化実施中期計画」を閣議決定。計画期間は2026〜2030年度(令和8〜12年度)の5年間で、事業規模はおおむね20兆円強を見込む。時限の「対策」から、腰を据えた「計画」へ。ここが最大の転換点である。
20兆円は何に使われるのか──5本柱と「老朽化」への軸足
計画には326の施策が盛り込まれ、そのうち推進が特に必要な114施策が重点に位置づけられた。事業規模の内訳は、大きく5本柱で示されている。
- ライフラインの強靱化(交通・通信・エネルギー等):約10.6兆円
- 防災インフラの整備・管理(流域治水、河川・砂防等):約5.8兆円
- 官民連携強化(住宅の耐震化、災害対応体制等):約1.8兆円
- 地域防災力の強化(防災公園、学校の安全確保等):約1.8兆円
- デジタル等新技術の活用(自動施工・省人化等):約0.3兆円
合計するとおおむね20兆円強となる。前身の5か年加速化対策(総額約15兆円・うち国費約8兆円)が達成率およそ6割で走り切ったのに対し、今回はより大きな枠が用意された格好だ。**2026年度(初年度)の年次計画は事業規模約4.1兆円(うち国費約1.9兆円)**が見込まれている。
注目すべきは、キーワードが「災害への備え」だけではなくなった点だ。設置から30年以上を経た大口径の下水道管の更新、道路橋の修繕、施設の耐震化など、顕在化するインフラ老朽化への対応が明確に主軸へ据えられた。作って守るフェーズから、壊れる前に直す(予防保全)フェーズへの移行が、国の計画として制度化されたと言える。
試験ではこう問われる
施工管理技士の試験で、防災・維持管理・予防保全は毎年のように問われる定番テーマだ。国土強靱化の中身を押さえておくと、幅広い分野が一本の筋で理解できる。
土木分野では、河川堤防の盛土・護岸、軟弱地盤対策(液状化対策や置換工法など)、コンクリート構造物の補修・補強が計画の主要施策とそのまま重なる。とりわけ、事後保全から予防保全型の維持管理へ、そして**ライフサイクルコスト(LCC)**を意識した長寿命化へ、という考え方は近年の頻出論点だ。「点検→診断→措置→記録」のメンテナンスサイクルは、道路橋・トンネルの定期点検制度とあわせて確実に押さえたい。
さらに、制度名そのもの(国土強靱化基本法、実施中期計画、5か年加速化対策)が時事的な出題材料になり得る。「時限の対策から法定の中期計画へ」という今年度の変化は、法規・施工管理法の背景知識として一言で説明できるようにしておくと強い。
現場ではこう効く
現場にとって最大の意味は、公共投資の見通しが立ちやすくなったことだ。時限措置ではなく法に根ざした中期計画になったことで、防災・老朽化更新の仕事が中期的に続くという前提で、人員計画や機械投資、若手育成を組み立てやすくなる。
もう一つ見逃せないのが、価格変動への姿勢だ。今回の計画では、毎年度の予算措置を災害や社会経済情勢に応じて機動的・弾力的に行うとしたうえで、**人件費や物価の高騰は予算編成で「適切に反映する」**と明記された。資材費・労務費の上振れが常態化するなか、これは単品スライド条項や設計変更といった契約実務での価格是正と地続きの話であり、赤字受注を避けるためにも動向を追う価値がある。
技術面では、新技術活用(約0.3兆円)が自動施工・省人化に充てられる点が、ICT施工・建設DXの流れと直結する。そして防災インフラ整備と老朽化更新が二本柱になったことで、点検・補修・更新(メンテナンス)市場の拡大が続く見通しだ。新設だけでなく「直して長く使う」技術を持つ技術者の価値が、これまで以上に高まっていく。
出典
- 内閣官房「第1次国土強靱化実施中期計画(計画本文・概要)」
- 日本経済新聞「老朽インフラ更新に20兆円 政府、国土強靱化計画を閣議決定」
- 総合資格navi「国土強靱化、次期5ヵ年計画を閣議決定!20兆円強の事業計画でインフラ老朽化への対応も推進」
- 日本工業経済新聞「【国土強靱化】26年度の年次計画策定/4・1兆円規模推進」
- 建設ニュース(wise-pds)「政府/強靱化実施中期計画を近く閣議決定、114施策に20兆円強」
- 建設ITナビ「改正国土強靱化基本法で『実施中期計画』を法定計画に位置づけ」

