「木造のビル」と聞くと、せいぜい数階建ての低層をイメージする方が多いはずです。ところが2026年は、その常識が大きく塗り替わる年になります。東京・日本橋で建設が進む木造賃貸オフィスビルが、地上18階・高さ約84m という規模で 2026年秋(9月予定)の竣工 を迎えるからです(三井不動産)。
なぜ今「木で高層ビル」が可能になったのか。鍵は、近年進んだ 建築基準法の防火規定の合理化 にあります。本記事では一次情報に基づき、何がどう変わったのかを、施工管理技士・建築士試験で頻出の 耐火・防火 の知識と結びつけて整理します。
「木で18階建て」が現実になる年
まず、象徴的なプロジェクトを押さえましょう。三井不動産と竹中工務店が日本橋で進める 「日本橋本町一丁目3番計画」 は、地上18階・高さ約84m、延床面積約28,000㎡という規模で、木造と鉄骨造のハイブリッド構造 を採用しています。「国内最大・最高層となる木造賃貸オフィスビル」と位置づけられ、使用する木材量は 国内最大級の1,100㎥超 とされています(三井不動産)。
これを支えるのが、最先端の耐火・木造技術です。同計画では 3時間耐火集成材「燃エンウッド」 や、CLT(直交集成板)を用いた耐震壁・制震壁 などが採用されています。木材は本来「燃える材料」ですが、技術と設計でその弱点を制御できるようになった――それが「木造高層」を成立させた背景です。国産木材を使う木質化オフィスの計画は各地で立ち上がっており、「木造=低層」という前提そのものが過去のものになりつつあります。
何が可能にしたか──建築基準法の「防火規定合理化」
技術だけでは高層木造は建ちません。それを許容する 法令の側の見直し が不可欠でした。
国土交通省は 令和4年(2022年)6月17日公布(施行は公布から2年以内)の建築基準法改正で、中大規模建築物の木造化を促進する 防火規定の合理化 を行いました(国土交通省)。ポイントは大きく2つです。
① 大規模建築物の「あらわし」設計が可能に 従来、延べ面積が大きい建築物では構造部材を石こうボード等で覆う必要がありましたが、改正により 延べ面積が3000㎡を超える大規模建築物を木造とする場合でも、構造部材である木材をそのまま見せる「あらわし」による設計が可能 になりました。木の質感を活かしたデザインの自由度が大きく広がります。
② 階数に応じた耐火性能の合理化 現行基準では、おおむね 4階建て以下で1時間、5階建て以上14階建て以下で最大2時間 の耐火性能が求められていました。改正では、階数5以上9以下の建築物の最下層について、90分(1.5時間)耐火性能でも設計可能 とするなど、階数に応じた要求性能が見直されました。中層木造の「最下層に過大な耐火性能を求めすぎる」ボトルネックを緩めた格好です。
「燃える材料を高く積む」という難題を、設計上の制約緩和 と 耐火技術 の両輪で解いた――これが2026年の木造高層ラッシュの正体です。
キーワードは「燃えしろ設計」と「耐火集成材」
ここで、試験にも現場にも効く2つの用語を押さえておきましょう。
燃えしろ設計 とは、火災時に木材の表面が炭化して燃え進みが止まる性質を利用し、あらかじめ「燃え尽きる部分(燃えしろ)」の厚みを上乗せして部材断面を大きくしておく木造の耐火設計法です。木は鉄と違い、表面が炭化層になると内部への熱伝達が抑えられ、芯まで一気に燃え落ちにくい。この特性を逆手に取り、「燃えても所定時間は構造を保つ」断面を確保するわけです。
耐火集成材 は、この考え方をさらに高度化したものです。たとえば「燃エンウッド」のように、燃え止まり層や荷重支持部を組み合わせ、3時間という長時間の耐火性能 を集成材で実現する技術が実用化されています。これにより、これまで鉄骨・鉄筋コンクリートでしか満たせなかった高い耐火要求を、木質部材でクリアできるようになりました。
加えて、壁・床には CLT(直交集成板) が使われます。CLTはひき板の繊維方向を層ごとに直角に交差させて接着した厚型パネルで、面材として高い剛性を発揮します。ただし直交層がある分、すべての繊維方向を揃えた集成材に比べると 強軸方向のヤング係数や強度は小さくなる という特性があり、ここは試験でも問われる要注意ポイントです。
政策の後押し──「都市の木造化推進法」と脱炭素
こうした技術・法令の動きを上流で支えているのが、木材利用を促す国の政策です。
2021年(令和3年)10月施行の改正で、従来の「公共建築物等木材利用促進法」は 「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称:都市の木造化推進法) へと改められ、基本方針等の 対象が公共建築物から建築物一般(民間建築物を含む)に拡大、法目的に 「脱炭素社会の実現に資する」旨が明示 されました(林野庁)。
木材は成長過程でCO₂を取り込み、建築物として使い続ける限り炭素を固定し続けます。「都市に森をつくる」という発想でオフィスや商業施設の木質化を後押しする――これが木造高層を駆動する政策的背景です。前日に取り上げた低炭素型コンクリートと同様、建材そのものの脱炭素 が、いま建築・土木の共通テーマになっています。
試験ではこう問われる/現場ではこう効く
試験では 木造は安定した頻出分野です。1級建築施工管理では「木質構造」「大断面集成材を用いた木造建築物」「木質軸組構法」がほぼ毎年のように出題され(令和5年・令和7年など)、2級でも「木造在来軸組構法」が繰り返し問われています。防火側では「防火区画」「主要構造部」「耐火構造・準耐火構造」の定義と数値が定番です。今回の改正を理解しておくと、「なぜ階数で耐火時間が変わるのか」「あらわしと被覆の違いは何か」といった出題趣旨まで腑に落ち、丸暗記から一歩抜け出せます。燃えしろ設計=燃える前提で断面を増やす、CLT=直交層ゆえ強軸は集成材より不利、この2点は得点源です。
現場では 木造高層特有の管理項目が増えます。第一に 含水率管理と養生。大断面集成材やCLTは寸法が大きいぶん、施工中の吸水・乾燥による割れや反りが品質に直結します。第二に プレカット精度。集成材は工場プレカットで加工され、長さ3m以上では許容誤差が±3mm程度と厳しく管理されるため、加工段階の精度確認が要です。第三に 火気管理と防火区画の確実な施工。あらわしで木を見せる設計ほど、施工中の火気養生と、竣工後の区画貫通部処理(配管まわりの不燃材充填等)の徹底が安全の生命線になります。
「木で高く建てる」は、もはや実験ではなく実装のフェーズに入りました。法令の意図と材料の弱点・強みを正しく押さえることが、試験の得点にも、現場の品質・安全にも、そのまま効いてきます。
出典
- 三井不動産「国内最大・最高層の木造賃貸オフィスビル着工(日本橋本町一丁目3番計画)」 https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2024/0111_01/
- 国土交通省「住宅:中大規模建築物の木造化を促進する防火規定の合理化」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/r4kaisei_kijunhou0003.html
- 林野庁「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(都市の木造化推進法)」 https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/koukyou/

