朝礼で説明した停止の合図を、作業者はどの動作として受け取ったか。配った手順書の中で、分からない言葉を質問できるか。外国人材を迎える現場では、説明を終えたことと、作業の判断に使える形で伝わったことを、つなげて考えたいところです。
厚生労働省は2026年9月15日、技能実習生または特定技能外国人を使用する事業場に対して行った、2025年の監督指導・送検等の状況を公表しました。今月新たな教育義務が始まったという発表ではありません。労働条件と安全衛生の管理を、実際の指導事例から点検する機会です。厚労省・公表資料
監督結果の数字は、対象の範囲と一緒に読む
今回の監督は、労働基準関係法令の違反が疑われる事業場に対して行われています。無作為に抽出した調査でも、外国人を雇う全事業場の調査でもありません。厚労省・監督指導の対象
対象となった建設事業場では、技能実習生関係は2,808事業場中2,252事業場、80.2%で違反が認められました。特定技能外国人関係は1,238事業場中1,008事業場、81.4%です。いずれも監督した事業場の中での割合であり、建設業全体の違反率とはいえません。また、各集計には技能実習生や特定技能外国人以外の労働者に関する違反も含まれます。別紙1・2ページ、別紙2・2ページ
建設の主な違反事項を見ると、技能実習生関係で最多なのは割増賃金の支払、特定技能外国人関係では健康診断結果についての医師等からの意見聴取です。全業種をまとめた結果で機械等の安全基準が最多だからといって、建設でも同じ順位だと読むことはできません。別紙1・業種別結果、別紙2・業種別結果
労働時間の確認と、安全の伝え方をつなぐ
技能実習生関係の資料には、土木工事業で残業代の不払の申告を受け、立入調査した事例があります。週40時間を超えた労働に対する割増賃金が支払われず、是正勧告を受けた会社が不足額を支払っています。現場で把握した労働時間が、賃金計算まで正しく届いているかを考える材料です。別紙1・監督指導事例1
教育の方法を考える参考になるのが、特定技能外国人関係の金属製品製造業の工場の事例です。切断工具による災害後、会社はリスクアセスメントを実施して手順を見直し、その内容を母国語で教育しました。リスクアセスメントとは、作業に潜む危険性・有害性を見つけ、その大きさを見積もって対策を考えることです。同じ工場では、フォークリフトの作業内容と技能講習修了者を表にし、未修了者が運転しないようにしました。別紙2・監督指導事例1
これは建設現場の災害事例ではありません。建設へ参考にできるのは、手順の見直し、理解できる教育、担当できる人の確認を結び付ける考え方です。国籍が災害の原因だったと推定するものでもありません。
「理解できる方法」は、2019年通知から確認する
厚労省の2019年3月28日通知は、母国語や映像などを使い、本人が教育内容を確実に理解できる方法で行うことを示しています。標識や掲示も対象であり、翻訳した手順書を渡す場面だけの話ではありません。外国人労働者への安全衛生教育に関する通知
通知では、通訳・教育の補助役を依頼することや、理解度を確認しながら継続して教育することを「望ましい」としています。災害防止に必要な日本語や基本的な合図を習得させることは「努める」という表現です。これらを一律の新しい法定義務と読み替えず、教育を実効あるものにする方法として押さえましょう。同通知・実施とフォローアップ
試験ではこう問われる
1級建築・令和7年のNo.69は、雇入れ時の教育、特別教育、職長等教育などを扱います。雇入れ時教育は、新たに雇い入れた人に業務の安全衛生を教える教育。特別教育は、所定の危険・有害な業務に就かせる際に事業者が行う教育です。この問題では、特別教育を必ず登録機関に行わせるという記述が誤りで、教育の実施主体を区別することが要点になります。
1級土木・令和8年のNo.9では、玉掛け、高所作業車、コンクリートポンプ車、足場作業を挙げ、技能講習の修了が必要な業務を問います。技能講習は登録教習機関等で行う講習で、特別教育と混同できません。就業制限は、所定の資格を持つ人でなければ担当させられない業務の規制です。機械の能力や作業の種類まで読んで、必要な資格・教育と対応させる練習になります。
この2問から現場へ持ち帰れるのは、教える内容・方法と、従事するために必要な資格を別々に確認する視点です。在留資格の「特定技能」と、労働安全衛生法令上の「技能講習」も別のものとして整理しましょう。
現場ではこう効く
ここからは資料を踏まえた編集上の運用提案です。受入れ準備では、その人が担当する作業、必要な教育・資格、説明に使う言語、質問や異常時の連絡先を一緒に確認すると、配属後に確かめることが具体的になります。
例えば停止の合図なら、説明後に本人に意味を言い直してもらう、安全な場所で動作を示してもらう、といった確認が考えられます。曖昧な点があれば表現や図を直し、再び確かめる。ここで挙げる方法や記録様式が、全現場に法定されているという意味ではありません。
教材を探す際には、厚労省の建設業向けページが使えます。言語別・業務別に動画とPDFが用意され、作業内容に合わせて選べます。建設業に従事する外国人労働者向け教材。教材の視聴だけで、必要な特別教育の全課程や技能講習、免許を代替できると扱わないことも大切です。
労務管理では、雇用する事業者の担当者と、現場の勤務実績がどう共有され、残業時間と賃金へ反映されるかを確認することを提案します。相談を受ける人を明確にしておけば、安全上の疑問と同様、説明の行き違いを拾う入口になります。
受入れ時の説明を、日々の作業・勤務実績・相談へつなげる。その中で「伝えた内容」を「確かめられる内容」に変えていくことが、今回の監督結果を自分の現場の点検へ活かす一歩になります。

