道路の定期点検が義務づけられて12年。国土交通省は2026年8月26日、2025年度(令和7年度)までの点検・診断結果と措置状況をまとめた「道路メンテナンス年報(3巡目2年目)」を公表している(国土交通省)。
数字を並べると、この12年で何が変わって何が変わっていないかが、かなりはっきり見える。老朽化は確実に進んでいる。それでも「早く直すべき橋」は減っている。ところが直す側の足並みは、管理者によって大きく割れている。そして今年から、道路陥没の発生件数とその要因が新たに公表項目に加わった。
「5年に1度・近接目視・健全性4段階」は3巡目に入った
まず制度のおさらいから。平成25年(2013年)の道路法改正等を受けて平成26年(2014年)7月に始まった仕組みで、道路管理者は橋梁・トンネル・道路附属物等について、5年に1度、近接目視で点検し、その結果として健全性を4段階に診断することが義務づけられている(道路メンテナンス年報)。ここでいう道路管理者には国も高速道路会社も市区町村も含まれる。全国の橋梁・トンネル・道路附属物等が、管理者を問わず一律に対象という、かなり思い切った制度である。
5年周期なので、1巡目は2018年度に、2巡目は2023年度に完了した。2024年度から3巡目に入っており、今回の年報はその2年目にあたる。3巡目2年目(2024〜2025年度)までの累計の点検実施率は**橋梁39%、トンネル34%、道路附属物等38%**で、いずれも2巡目の同じ時点を上回った。5年で一周させる制度では、初年度に偏らせず毎年20%前後ずつ均等に回すのが理想である。橋梁と道路附属物等はそのペースに近く、トンネルはやや遅れるものの、平準化は進みつつあるということだ。
健全性の診断区分は、次の4段階である。定義の言い回しがそのまま出題文になるので、原文の表現で押さえておきたい。
| 区分 | 名称 | 状態 |
|---|---|---|
| Ⅰ | 健全 | 構造物の機能に支障が生じていない状態 |
| Ⅱ | 予防保全段階 | 構造物の機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態 |
| Ⅲ | 早期措置段階 | 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態 |
| Ⅳ | 緊急措置段階 | 構造物の機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態 |
ⅢとⅣの違いは「これから支障が生じうる」か「もう生じている」かにある。Ⅳと診断された施設については、早急に通行止めや通行規制等の緊急措置が行われる。
老朽化は進む。それでも「Ⅲ・Ⅳ」は減っている
年報のいちばんの読みどころはここだ。
建設後50年以上を経過した橋梁の割合は、2018年度末で27%(約13万橋)、2023年度末で39%(約21万橋)、そして2025年度末で44%(約24万橋)。トンネルも21%(約2,300箇所)→27%(約3,000箇所)→**29%(約3,300箇所)**と増え続けている。構造物は毎年確実に歳を取る。
にもかかわらず、修繕等が必要な判定区分Ⅲ・Ⅳの数は減っている。橋梁のⅢ・Ⅳは、1巡目点検結果で69,051橋、2巡目点検結果で56,463橋、そして2025年度末時点で51,046橋。トンネルも4,416箇所→3,288箇所→3,016箇所と減った。2025年度末時点の橋梁の判定区分割合は、Ⅰ:44%(319,979橋)、Ⅱ:49%(354,500橋)、Ⅲ:7%(50,434橋)、Ⅳ:0.1%(612橋)である。
「古い橋が増えているのにⅢ・Ⅳは減る」というのは一見矛盾して見えるが、これは壊れてから直す(事後保全)から、壊れる前に手を打つ(予防保全)への移行が効き始めていることを意味する。Ⅱの予防保全段階が全体の約半分を占めていることも、その裏返しだ。国土交通省もこの傾向を「予防保全への移行に向け修繕等措置は着実に進捗している」と評価している。
問題は点検ではなく「直す側」──市区町村の完了率は43%
ただし、直せているかどうかは管理者によってかなり違う。
2巡目(2019年度〜2023年度)の点検でⅢ・Ⅳと判定された橋梁について、2025年度末時点の措置状況を見ると次のようになる。
| 管理者 | 措置が必要 | 着手済 | うち完了 |
|---|---|---|---|
| 国土交通省 | 3,684橋 | 3,370橋(91%) | 1,915橋(52%) |
| 高速道路会社 | 2,725橋 | 2,157橋(79%) | 1,408橋(52%) |
| 地方公共団体 | 48,494橋 | 33,541橋(69%) | 21,833橋(45%) |
| うち都道府県・政令市等 | 16,907橋 | 13,653橋(81%) | 8,291橋(49%) |
| うち市区町村 | 31,587橋 | 19,888橋(63%) | 13,542橋(43%) |
| 合計 | 54,903橋 | 39,068橋(71%) | 25,156橋(46%) |
母数を見てほしい。措置が必要な橋梁54,903橋のうち、31,587橋が市区町村の管理である。全体の約6割だ。そして市区町村の着手率は63%、完了率は43%にとどまる。国土交通省の91%とは30ポイント近い開きがある。
Ⅲ・Ⅳの橋梁は次回点検まで(5年以内)に措置を講ずべきとされているが、国土交通省は「地方公共団体において5年以上経過していても措置に着手できていない橋梁は約2割ある」と明記した。トンネルでも同様に約1割が5年超の未着手である。技術者数も予算も限られる小規模自治体に、措置が必要な橋の約6割がぶら下がっている構造そのものが、この数字の背景にある。
だからこそ「直さない」という選択肢も制度化されつつある。地方公共団体における施設の集約・撤去・機能縮小等の検討状況は、2025年度末時点で1,788団体中1,733団体(97%)が検討済みとなった。道路メンテナンス事業補助制度では2025年度に124団体を支援しており、令和8年3月には「道路施設の集約・撤去ガイドライン」も公表されている。隣接する橋梁の一方を撤去し、残る橋の補修・架替と迂回路の拡幅・安全対策をあわせて行う、といった判断を後押しする枠組みである。
【今回初公表】道路陥没の要因は「水が流れる施設」だった
今年の年報で新設されたのが、道路陥没の発生件数とその要因の項目だ。2025年度に発生した道路陥没件数(ポットホールは含まない)は、直轄国道で101件、都道府県管理道路で1,282件、市町村管理道路で9,844件(政令市・特別区を含む)。3者を足すと1万1千件を超える(編集部集計。高速道路会社が管理する道路は集計対象外)。
要因の内訳が示唆的である。国土交通省は「陥没の要因は様々ありますが、水が流れる施設(道路排水施設、下水道、水道)の件数が多く、その中でも道路排水施設の割合が高くなっています」としている。道路施設が要因の陥没が占める割合は、直轄国道で63%、都道府県管理道路で54%、市町村管理道路で50%。一方、占用物件が要因のものは10〜16%である。
ところが都市部では絵が変わる。特別区が管理する道路の陥没198件では、占用物件を要因とするものが49%を占め、うち下水道が89件。政令市が管理する道路2,455件でも占用物件が24%(うち下水道546件)だった。人口集中地区では、地下に埋まっているものの密度がそのまま陥没要因の構成を変える。改正下水道法・道路法が「点検できる構造」と竣工図提出を求めた背景が、この数字にそのまま表れている。
路面下空洞調査の実績も出ている。直轄国道における2025年度の調査延長は2,788km(調査対象延長20,810kmの約12%)。路面下空洞が8,419箇所確認され、そのうち路面陥没の可能性が高いと考えられる区分Aが194箇所(2%)、区分B(中程度)が3,842箇所(46%)、区分C(低い)が4,383箇所(52%)。区分Aの194箇所は全箇所で修繕等に着手済み・完了済みである。
試験ではこう問われる
年報そのものが出題されることはまずないが、この制度と用語は1級・2級土木の維持管理分野の土台になっている。
- 健全性の診断区分Ⅰ〜Ⅳ:定義文の語句を入れ替える形の出題が作りやすい。「Ⅲ=支障が生じる可能性があり、早期に」「Ⅳ=支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に」の対比が要である。
- 点検の頻度と方法:「5年に1度」「近接目視」「健全性を4段階に診断」の3点セット。橋梁だけでなくトンネル・道路附属物等(シェッド、大型カルバート、横断歩道橋、門型標識等)も対象であることを落とさない。
- 劣化機構と補修工法:年報が挙げる損傷事例は、床版の鉄筋露出、主桁の腐食、支承の腐食、橋脚の洗掘である。これは中性化・塩害・アルカリシリカ反応・疲労といった劣化機構の出題や、鋼橋の防食法(塗装、耐候性鋼材、溶融亜鉛めっき、金属溶射、電気防食)の出題と地続きになっている。
- 予防保全と事後保全:施工計画・維持管理の記述問題で、ライフサイクルコストの考え方とセットで問われる論点である。
現場ではこう効く
第一に、受注側から見た仕事の量が読める。Ⅲ・Ⅳの橋梁は次回点検まで(5年以内)に措置を講ずべきとされているので、5年周期で修繕発注の玉が積み上がる構造になっている。市区町村の未着手が11,699橋残っているという事実は、そのまま今後の修繕市場の輪郭でもある。
第二に、点検の省力化技術は制度側が用意している。国土交通省は「点検支援技術性能カタログ」を公表しており、橋梁・トンネルの点検を支援する技術の性能情報がまとめられている(令和8年3月版が最新)。近接目視が基本という原則を踏まえたうえで、どこまで補完できるかを判断する材料になる。
第三に、陥没対策の主戦場は排水施設だという点。全道路で見れば陥没要因の最大勢力は下水道でも水道でもなく道路排水施設だった。側溝・集水桝・排水管の詰まりや破損の放置が、地中の吸出しを経て陥没に至る。施工側から言えば、掘削・埋戻しの締固め品質と、既設埋設物まわりの水みちの処理が、そのまま何年か後の陥没の有無を決める。舗装復旧をして現場を離れた後に効いてくる仕事である。
点検制度は1巡目・2巡目を終え、「見る」ところまでは全国に行き渡った。次の論点が「直す」と「畳む」に移っていることが、今回の年報からははっきり読み取れる。

