道路の下には、私たちが普段まったく意識しない構造物が走っています。総延長は約50万km。地球を12周してもまだ余る長さの下水道管が、舗装の下で汚水を運び続けています。その一部が壊れると何が起きるかを、私たちは令和7年に見せつけられました。
令和8年7月15日、「下水道法等の一部を改正する法律」が参議院本会議で可決・成立し、同月23日に令和8年法律第65号として公布されました。さらに令和8年8月4日には、その一部の施行期日を定める政令などが閣議決定されています。下水道の担当者だけの話ではありません。道路法も同時に改正されており、道路を掘る人・埋設物を持つ人すべてに関係する内容です。
「耐用年数50年」を超えた管が、10年後には10万kmになる
改正の直接の引き金は、令和7年1月28日に埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故です。下水道管路の破損に起因するもので、巻き込まれたトラックの運転手が死亡しました。陥没穴への下水流入を止める必要から、上流域では約120万人規模の住民等に下水の使用を控えるよう求める事態となり、生活面の影響も広範囲に及びました(参議院・立法と調査 第483号)。
背景にあるのはストックの規模と老朽化です。同資料によれば、日本の下水道は管路延長約50万km、処理場数約2,200箇所(令和5年度末時点)という膨大なストックを持ちます。標準的な耐用年数は50年とされ、これを超過した管路延長は令和5年度末で約4万km(全管路の7%)。それが10年後には約10万km(同20%)、20年後には約21万km(同42%)へと加速度的に増えると見込まれています。
一方で担い手は減り続けています。下水道事業に携わる地方公共団体の職員数は、平成9年度の約4.4万人から令和6年度には約2.7万人へ減少。汚水処理人口5万人以下の事業体では、令和4年度時点の平均職員数が約5人という水準です。ストックは増え、人は減る——この構図が、今回の「基盤強化」という法目的につながっています。
事故後に実施された全国特別重点調査の結果も生々しいものでした。直径2m以上・設置後30年以上経過した大型管(総延長約5,000km)が対象です。令和7年9月末時点で、優先実施箇所約813kmのうち約785kmで目視調査を実施し、うち約666kmで緊急度を判定したところ、原則1年以内の速やかな対策が必要と見込まれる延長(緊急度Ⅰ)が約75km、応急措置のうえ5年以内の対策が必要な延長(緊急度Ⅱ)が約243km、空洞は7箇所確認されたとされています。
改正法は何を変えるのか──三つの柱
国土交通省の説明によれば、改正の柱は大きく三つです(「下水道法等の一部を改正する法律案」を閣議決定)。
(1)安全性確保を最優先する下水道マネジメントの確立 施設の安全性を評価する診断の基準を法制化し、下水道管理者による維持管理状況の公表を義務付けます。これまで自治体ごとにばらついていた「健全なのか、危ないのか」の判断軸を国の基準に寄せ、その結果を住民に見える形にする、という方向です。
(2)道路地下空間の安全性確保 「占用物件等維持修繕協定」制度を創設し、道路の地下に埋設する占用物件について、工事完了時の竣工図等の提出を義務付けます。
(3)下水道マネジメントの基盤強化 国の基本方針の創設、都道府県が公共下水道を管理できる制度の創設などです。都道府県が「広域連携推進計画」を策定する制度や、災害時に都道府県が市町村に代わって公共下水道の復旧工事を代行できる制度も設けられました。令和8年8月4日に閣議決定された政令は、この災害復旧代行に関する規定の施行期日を令和8年8月17日と定めるもので、政令自体は同年8月7日に公布されています(国土交通省 報道発表)。
施工管理の視点でいちばん効くのは、(1)に含まれる構造の原則の書き換えです。従来の下水道法第7条は、下水道の構造について「公衆衛生上重大な危害が生じ、又は公共用水域の水質に重大な影響が及ぶことを防止する観点」から政令で定める技術上の基準に適合すること、とだけ定めていました。改正法はここに、改築・修繕・点検および災害時の応急措置等の容易性を考慮すべきことを原則として加えます。つまり「壊れないように造る」だけでなく、「あとで点検・修繕できるように造る」ことが法の要求になるということです。
点検頻度は「5年に1回」からメリハリへ(政省令はこれから)
点検頻度の根拠は下水道法施行令第5条の12にあり、腐食のおそれが大きい公共下水道には最低でも5年に1回の点検が課されています。この頻度は今後見直される見込みです。
国土交通省の「下水道管路マネジメントのための技術基準等検討会」が令和8年1月に公表した中間整理では、管路を重要管路と枝線に区分し、それぞれに応じたメリハリのある点検・調査を求めています。中間整理で示された考え方では、重要管路の要注意箇所は3年または5年に1回以上、要注意箇所以外は10年に1回以上、枝線の要注意箇所は5年に1回以上、という頻度が想定されています。診断区分についても、従来の「重度/中度/軽度/劣化なし」を「緊急措置段階/早期措置段階/要監視段階/健全/診断保留」に改める案が示されました。
注意したいのは、これらはまだ中間整理の段階であって、政令改正として確定したものではないという点です。改正法は「基準を法制化する」枠を作り、具体の頻度や区分は今後の政省令に委ねられます。現場としては、確定した数字を待ちつつ、「重要管路かどうかでかける手間が変わる」という設計思想だけ先に頭に入れておくのが実務的でしょう。
試験ではこう問われる/現場ではこう効く
施工管理技士試験では、下水道は管渠の基礎工・推進工法・更生工法という「造り方」の切り口で繰り返し出題されてきました。1級土木の令和7年度でも、下水道管渠の更生工法(No.52)、小口径管推進工法(No.53)、薬液注入の施工管理(No.54)が並んで出ています。2級土木でも剛性管渠の基礎地盤の土質区分と基礎の種類の組合せは定番です。
今回の改正は、この定番論点に**「維持管理・点検のしやすさ」という評価軸**を接続します。管更生工法が「開削せずに直す」技術として重要度を増すこと、リダンダンシー(冗長性。管路の多重化や連絡管の整備など)やメンテナビリティが構造の要求事項として語られるようになること——出題側が新傾向を作るとすれば、この線です。法令分野では、道路占用(道路法)と下水道管理の接点が問われやすくなります。
現場で先に効くのは道路占用の実務です。改正法では、道路占用許可申請書の記載事項に占用物件の維持管理に関する事項が追加され、道路の地下に埋設する占用物件については、工事完了時に工作物等の状況を示す図面(竣工図)等の提出が義務付けられます。埋めたら終わり、ではなく「どこに何を埋めたか」を正確に残すことが許可制度の一部になる、ということです。
加えて、これに先行して令和7年7月に道路法施行規則が改正され、令和8年4月1日から、道路占用者は占用期間の更新時または5年に1回、占用物の安全点検結果を道路管理者へ報告することとされています。電柱・電線・地下管路等の占用者については、道路管理者等の定める期間ごとに点検の実施状況や結果を報告することになりました。これはすでに適用が始まっている運用です。
「掘って、埋めて、舗装を復旧して終わり」だった仕事に、記録と報告が積み上がります。竣工図の精度、埋設位置の実測、占用物件の点検記録——これまで担当者の善意で保たれてきた部分が、制度として要求される段階に入りました。八潮の事故が突きつけたのは、地下の情報が曖昧なままでは事故を予防できないという単純な事実でした。
出典
- 国土交通省「『下水道法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令』等を閣議決定」(令和8年8月4日)
- 国土交通省「『下水道法等の一部を改正する法律案』を閣議決定」(令和8年3月27日)
- 参議院「立法と調査 第483号 強靱で持続可能な下水道の実現に向けた法整備-下水道法・道路法等の一部改正-」(令和8年4月30日)
- 参議院「議案審議情報 下水道法等の一部を改正する法律案」

