「いつものセメント」の中身が、静かに変わった
2026年3月23日、コンクリートの最も基本的な材料であるセメントの日本産業規格(JIS)が改正され、官報に公示された。対象はポルトランドセメントを定める JIS R 5210 や、高炉セメントの JIS R 5211 などで、4つの品質規格と2つの試験方法規格が改正されている。大きな狙いは、セメント産業のカーボンニュートラル(脱炭素)である。
改正の核心は、私たちが最もよく使う「普通ポルトランドセメント」の中身だ。セメントに少しだけ混ぜてよい「少量混合成分」の上限が、質量で「0%以上5%以下」から「0%以上10%以下」へと引き上げられた。あわせて、これまで定められていた「強熱減量(加熱したときに失われる量)の規定値が削除」された。数字だけ見ると地味だが、これは「普通セメントの定義そのもの」が一段動いた、ということだ。
なぜ「混ぜもの」を増やすと脱炭素になるのか
セメント作りで二酸化炭素が大量に出るのは、主原料の石灰石を約1,450℃で焼いて「クリンカー」を作る工程だ。石灰石(炭酸カルシウム)を焼くと化学反応でCO2が抜け、さらに高温で焼くための燃料からもCO2が出る。つまり、クリンカーの量を減らせば、セメント1トンあたりのCO2排出は下がる。
そこで、クリンカーの一部を少量混合成分に置き換える。上限を10%に広げたのはこのためで、クリンカーの比率を下げてCO2を減らす狙いがある。セメント協会によれば、少量混合成分の増量に伴ってセメントの密度は小さくなる。あわせて、強熱減量(加熱試験で失われる量)の規定値も削除された。気になる品質については、同協会が改正JISに適合するセメントで作ったコンクリートの物性は、現行品と同程度だったと報告している。あわせて、セメントの物理試験方法(JIS R 5201)や水和熱の測定方法(JIS R 5203)も2026年に改正され、試験の精度向上や国際規格との整合が図られた。
試験ではこう問われる/現場ではこう効く
試験の観点:セメントの種類と性質、混和材料、水和熱は、土木・建築・舗装のいずれの施工管理技士でも定番の出題テーマだ。とりわけ「少量混合成分」「混合セメント(高炉・フライアッシュ)」の基本は、今回の改正でいっそう問われやすくなる。「強熱減量」は、今回の改正で規定値が削除された用語として押さえておきたい。クリンカーと混合材の関係、混合セメントがなぜ水和熱の低減やアルカリシリカ反応の抑制に効くのか——この筋道を押さえておけば、そのまま得点源になる。
現場の観点:普通セメントの規格が変わったことで、生コンやコンクリート二次製品の品質管理でも、受入れの考え方が見直される。とくに密度や強熱減量を管理の目安にしてきた現場では、強熱減量は規定値そのものが削除され、密度は小さくなる方向にあるという前提の変化を押さえておきたい。見た目や強度が大きく変わるわけではないが、「使っているセメントの規格が新しくなっている」ことを前提に、ミルシート(材料試験成績表)や配合の確認を習慣づけることが、これからの品質管理の土台になる。
出典
- 一般社団法人セメント協会「カーボンニュートラル実現に向けたセメントのJIS改正」
- 麻生セメント「セメントJIS改正に関するお知らせ」
- 日本規格協会「2026年3月発行の注目JISをご紹介いたします Part.3」

