「材料が手に入らない」という悲鳴は、この夏はあまり聞こえてこない。代わりに現場を静かに削っているのは、発注のたびにじわりと上がる単価のほうだ。2026年(令和8年)6月の公的統計を読むと、その構図がはっきり見えてくる。数量はある、けれど価格はゆっくり上がる——見積を出した時と契約した時、契約した時と施工した時で、材料費がずれていく局面である。
背景:需給は「均衡」でも、価格は5品目が「やや上昇」
国土交通省が毎月実施している主要建設資材需給・価格動向調査(令和8年6月1~5日現在)では、**7資材13品目のすべてで需給動向が「均衡」、在庫状況もすべて「普通」**という結果になった。つまり「モノが足りない」状態ではない。
ところが価格に目を移すと、アスファルト合材(新材・再生材)/異形棒鋼/H形鋼/木材(型枠用合板)/石油の5品目が「やや上昇」、それ以外は「横ばい」と判定されている。品目の顔ぶれに注目してほしい。鋼材(異形棒鋼・H形鋼)を除くと、アスファルト合材・石油と、石油に価格を引っぱられやすいものが並ぶ。
民間の解説でも、6月は「モノはあるが、単価はじわっと上がる」局面と整理されており、材料が足りないことより、見積と実行予算のズレへの対応が要点だと指摘されている(ネクスゲートマガジン)。急騰ではないが、下がってもいない——という読み方が実態に近い。
なぜ石油系がじわ上がりなのか:原油とホルムズ海峡
この「石油系のじわ上がり」の背景として、業界の調査機関も中東情勢を挙げている。建設物価調査会は2026年4月に、ホルムズ海峡における海上輸送リスクや原油価格の上昇を取り上げ、ストレートアスファルト・防水材・断熱材・塗料用シンナーといった石油系原料に依存する資材で、供給面の懸念や価格上昇の動きが顕在化していると指摘している(価格は2026年4月上旬調べ、需給は同年4月21日時点)。
ここで押さえておきたいのは、アスファルト合材の値段は「アスファルト(結合材)そのもの」だけで決まらない、という点だ。合材はプラントで加熱して製造し、ダンプで運び、現場で舗設する。加熱の燃料も、運搬・重機を動かす軽油も石油由来だ。だから原油高は、材料単価と燃料費の両側から舗装工事のコストを押し上げる。「石油」が価格上昇品目に入っているのは、この構造をそのまま映している。
試験ではこう問われる
原油や中東情勢そのものが試験に出るわけではない。効いてくるのは、その先の原価管理と再生材の知識だ。
施工管理技士試験では、実行予算と原価管理が頻出テーマである。1級土木の学科でも「工事の原価管理」の記述の正誤を問う設問が出ており、実行予算をものさしに実績原価を対比して差異を早く掴む、という基本が繰り返し問われる。資材が上がる局面ほど、この「差異を早期に発見する」原価管理の考え方が得点にも実務にも直結する。
舗装分野では、コスト対策と表裏一体の再生材・低炭素材料が定番だ。「舗装用材料としての再生資材」や「再生加熱アスファルト混合物の配合設計」、「建設リサイクル法」は過去問の常連で、再生骨材・再生合材の使い方や、製造温度を下げてエネルギーとCO₂を抑える中温化技術は、いまや「環境対応」であると同時に「材料費・燃料費対策」でもある。基準・法令の文脈で覚えた語が、そのまま値上がり局面の打ち手になる、という視点で整理しておきたい。
現場ではこう効く
まず、見積の有効期限と単価の根拠日を意識すること。需給が均衡=品薄でないからこそ、「調達できない」より「見積時と実行時で単価がずれる」リスクのほうが現実的だ。長工期の舗装・鉄骨工事では、materialの価格前提をいつ時点のものにするか、発注者・元請と早めにすり合わせておきたい。
次に、燃料と運搬を材料費と切り離して見ないこと。石油が上がる局面では、合材単価だけでなく、プラントからの運搬距離・重機の稼働時間が効いてくる。歩掛(人・機械の投入量の目安)ベースで積算する際、燃料高の影響を運搬・機械経費にも反映できているかを点検したい。
そして、再生材・中温化を「コストの選択肢」として持つこと。品質基準を満たす前提で、再生合材の活用や製造温度を抑える工夫は、環境評価だけでなく実行予算の防衛にもなる。値上がりのニュースは、こうした技術を「試験の暗記項目」から「現場の武器」へ引き上げる好機でもある。
急騰でも品薄でもない、静かな「じわ上がり」の夏。派手さがないぶん見落とされやすいが、実行予算をじわじわ削るのはこういう局面だ。統計の一行を、次の見積と積算に翻訳しておきたい。
出典
- 国土交通省「6月の主要建設資材の需給動向は全ての調査対象資材において均衡(主要建設資材需給・価格動向調査 令和8年6月1~5日現在)」(令和8年6月25日発表)
- 一般財団法人建設物価調査会「中東情勢緊迫化に伴う建設資材価格・需給動向」(2026年4月22日掲載)
- ネクスゲートマガジン「6月の建設資材需給は全品目で均衡、ただしアスファルト・鋼材・型枠合板・軽油はやや上昇」

