マンションの改修を考えるとき、外壁の傷みに加えて、配管や断熱、耐震性、使いにくい段差も気になる。何を残し、どこを直すかを決めるには、それぞれの状態を調べ、建物全体の再生案として比較する準備が必要になります。
国土交通省は2026年9月14日、「マンションストック長寿命化等モデル事業」の令和8年度第2回で、11件の応募から8件を採択したと発表しました。内訳は計画支援5件と工事支援3件で、工事支援はいずれも建替です。8件の改修が完成したという成果発表ではありません。国交省・採択結果
今回、改修の計画・施工に関わる読者が注目したいのは、計画支援の事例です。調査で何を確かめ、どの案と比べ、合意形成へどうつなぐかが、具体的に示されています。
長寿命化を、躯体とライフラインまで広げて考える
制度の概要では、計画支援は事業前の立上げ準備として、必要な調査や検討を支援するものと説明されています。評価のポイントには、建物を支える構造躯体と、給排水・電気・ガスなどのライフラインの長寿命化が挙げられています。同発表添付・補助事業の概要
仕上げを直す話と、建物を支える部分や設備をどう使い続けるかという話を分けると、計画の目的を整理しやすくなります。全てを一度に更新すると決めるのではなく、調べて分かった状態と、今後確かめる必要があることを区別するのが出発点です。
一棟リノベーションにも、制度上の範囲があります。評価資料では、建物の構造上主要な部分の働きを維持・回復すること(本来備えるべき働きの確保も含む)を目的に共用部分の形状を変え、その変更に伴って全ての専有部分について、形状・面積・位置関係のいずれかを変えるものと説明されています。専有部分は各住戸などの個別の所有部分、共用部分はそれ以外の共同で使う部分です。通常の外壁塗替えだけを、この制度でいう一棟リノベーションと呼ぶわけではありません。同発表添付・評価結果の優先募集枠
キャッスル共進:耐震・配管・断熱・段差を一緒に調べる
計画支援の「キャッスル共進」は、住宅と店舗が入る用途複合マンションです。提案では、耐震性、設備配管、断熱、段差などの課題に対し、既存の躯体を活用するスケルトン改修による長寿命化と性能向上を検討します。スケルトン改修は、建物の骨組みを活用して改修する考え方です。採択プロジェクト一覧・キャッスル共進
その計画には、情報収集とインスペクション、再生手法の比較、基本計画・資金計画、合意形成が含まれます。インスペクションは、建物の状態を調べることです。評価説明には、電気設備や給水管の劣化診断、環境性能の測定、水質検査などが挙げられています。評価結果・同プロジェクトの評価
ここで示されているのは、性能を改善するための調査と検討です。耐震性能や断熱性能が既に向上した、配管の施工方法が決まったという実績ではありません。複数の課題を並べて見ることで、外壁だけ、配管だけという単独の工事で対応するか、より広い範囲を見直すかを考える材料になります。
杉並コーポラス:未確認の性能と、管理体制も計画の対象に
「杉並コーポラス」の資料には、配管の腐食や漏水、エレベーター部品の供給終了、耐震診断が未実施であることなどが記載されています。提案は、管理体制の健全化と建物調査を進め、一棟リノベーションを中心に他の再生手法とも比較し、合意形成を支援する計画です。採択プロジェクト一覧・杉並コーポラス
耐震診断が未実施という記載を、診断で耐震性不足が確定したと読み替えることはできません。また、計画支援の採択だけで、改修する方針について全員の合意が成立したともいえません。調査の段階、方針を比べる段階、工事を行う段階を分けて読むことが大切です。
評価資料には、様々な再生手法と一般的な改修工事を、コストも含めて比較する視点が示されています。一棟リノベーションを全ての案件の正解とする制度ではなく、比較して判断するための計画です。評価結果・再生手法の比較検討
試験ではこう問われる
2級建築・令和7年のNo.27は、外部仕上改修工事の問題です。既存仕上塗材の除去、外壁の目地に充填するシーリング材の補修、コンクリート打放し面のひび割れ補修を扱います。既存部分の状態や仕上げ条件と、選ぶ工法を結び付けて学ぶ問題です。
1級建築・令和8年のNo.38は、鉄筋コンクリート建築物の内部断熱工事を扱います。吹付け厚さの確認、厚さの許容誤差、下地の不陸、断熱材の継目が出題範囲です。不陸とは下地表面の凹凸のこと。管理許容差は、施工管理で目標とする、寸法などのずれの許容範囲であり、断熱材の厚さを管理するときにも関係します。
断熱性能の言葉では、熱貫流率は壁などの熱の通りやすさを示す値で、小さいほど断熱性が高いことを押さえましょう。計画で性能向上を目指す話と、その性能を施工で実現するための下地・厚さの管理をつなげて理解できます。
両問は採択事例の工法を示す資料ではありません。今回のマンションが、問38の内部断熱工法を選定したと推定することはできません。学習上の接続は、改修の目的に合う工法と、その品質を確かめる項目を整理することです。
現場ではこう効く
以下は事例を踏まえた編集上の改修準備の提案です。部位ごとに、不具合、調査で判明したこと、未確認事項、目指す性能を並べて整理すると、設計者等へ何を確認するかが見えてきます。新しい法定調査一覧や、全マンションで必須の工事を述べるものではありません。
設備の改修なら配管の経路と範囲、断熱の改修なら下地と必要な厚さ、さらに他の工事との取り合いを確認することが役立ちます。工事間の取り合いは、部位や作業の接する部分で調整が必要になる関係です。計画段階でこれらを整理しても、断水期間や居住を続けられるかなどの条件は、個別の案で確認する必要があります。
なお、発表にある第3回の応募期間は9月14~18日で、9月19日時点では終了しています。この記事は募集への誘導ではなく、採択された計画の読み方を整理したものです。国交省・今後のお知らせ
建物を長く使う計画では、何が悪いかを調べることと、何を残してどう直すかを比べることがつながっています。調査結果を性能目標と施工の確認項目へ渡す視点で読むと、モデル事業の計画を、自分の現場の準備にも活かせます。

