地下の亀裂を材料でふさいだ後に地震で水みちが開いたら、止水性能はどうなるのか。補修後の長期性能を考える現場では、材料が最初に固まることに加え、その後の変化をどう確認したかが重要です。
積水化学工業は2026年9月11日、名古屋大学との共同研究で開発中の「自己修復性コンクリーション化技術」を、9月16~18日の地盤技術フォーラム2026で提案開始すると発表しました。これは完成品の販売開始や現場標準化の発表ではなく、実証や共同開発の相手を探している段階です。積水化学工業の発表
化石を包む石の形成を、亀裂のシーリングへ応用する
コンクリーション(concretion)は、炭酸カルシウムを主成分とする球状の岩塊です。生物の遺骸などの周囲で炭酸カルシウムが沈殿し、化石を包むように形成されます。研究チームは、この速い形成機構を岩盤の亀裂や空隙をふさぐ技術へ応用しました。名古屋大学の研究成果
2024年の詳細資料では、対象となる亀裂などに応じて、液体タイプとマイクロカプセル粒子タイプを使い分ける考え方が示されています。液体は岩盤亀裂へ注入し、粒子タイプはセメントミルクと併用して微小亀裂への注入を可能にする説明です。共同研究の詳細資料
材料が亀裂内で反応すると、炭酸カルシウムの結晶が形成されます。資料では、形成後も地下水に含まれる自然由来のイオンと反応して結晶が成長すると説明しています。ここでいう「自己修復」は、亀裂のシーリング性能が回復する仕組みを指します。地盤や構造体の強度があらゆる損傷から元どおりになるという意味ではありません。
積水化学の2025年の解説では、研究成果を現場へつなぐため、品質保証、施工方法、規格化を進めている段階が紹介されています。自然の岩塊と開発材料を同一とみなしたり、既に確立した標準工法として扱ったりせず、材料の仕様と施工条件を確認する必要があります。積水化学工業の技術解説
地下350m・約2年で確認されたのは、特定の岩盤亀裂
共同研究は、北海道幌延の地下350mにある岩盤亀裂で、約2年間の試験を行いました。試験では、地下水の透水性が試験直前と比べて低下しました。報告された結果は100分の1~1000分の1。これは透水性、つまり水の通りやすさを比較した結果であり、全ての湧水が止まった割合に置き換えることはできません。名古屋大学・試験結果
試験期間にはマグニチュード5.4を含む11回の地震がありました。地震によって一時的に低下したシーリング性能が、再シーリングによって回復したことも確認されています。ただし、この結果は幌延の地下岩盤という条件で得られたものです。あらゆる地震や損傷後の性能を保証する結果ではありません。
2026年の企業発表は、岩盤に加えて、固結していない土砂などの未固結地盤(まだ固まっていない地盤)にも緻密性や止水性の向上を提案しています。トンネルの漏水、法面、液状化、土壌汚染などは検討中の用途です。幌延の岩盤試験の数値を、未固結地盤や一般のトンネルへそのまま当てはめることはできません。積水化学工業・開発用途
同じ発表には3D光ファイバセンシング技術も掲載されていますが、これは光ファイバによる別の計測技術です。コンクリーション化剤と一体化した施工システムや、同時適用済みの技術として混同しないことが大切です。
試験ではこう問われる
1級土木・令和8年のNo.54は、薬液注入工事の施工管理を扱います。削孔の深度・角度・削孔水の状態、材料が流動性を失うまでのゲル化時間、埋設物、地表への噴出時の対応などが出題範囲です。判別点は、ゲル化時間を原則として作業前に測定することで、「作業中に測定する」とした記述が不適当です。
コンクリーション化剤が、この問題で扱う薬液と同じ材料・指針に該当すると示されたわけではありません。学習上の接点は、注入材料の効能だけでなく、どこへどのように注入し、周囲の変化をどう管理するかを分けて考えることです。
1級土木・令和8年のNo.6は、土質試験から得られる結果と用途の組合せを問います。含水比:土に含まれる水の質量と土粒子の質量の比です。一方、水の通りやすさを表す透水係数は、含水比から算定するのではなく、透水試験で求めます。「水を含む量」と「水が通りやすい程度」を区別する問題です。
既存の注入工法の一つが、コンソリデーショングラウチング。これは、ダムの浅い基礎岩盤にセメントミルクを注入し、支持力の向上と均一化を図る工法です。新技術も地下へ材料を注入しますが、目的、材料、対象地盤、注入方法を確認せずに同じ工法として扱うことはできません。
現場ではこう効く
以下は、開発中の技術を現場で検討する際の編集上の確認提案。まず地盤の種類、亀裂や空隙、地下水の状態を整理し、止水性などの目標性能を決めます。そのうえで、削孔位置と深度、材料の配合、注入状況、周辺への影響、施工後の検査方法を、開発者や設計者等へ確認する流れが考えられます。これは新技術専用の確立済み基準や新たな法定義務を示すものではありません。
自己修復を期待する場合も、どの変化を性能低下と判断し、どの方法で回復を確かめるかが必要です。適用できる地盤、他材料との併用、再施工の判断も、実証段階で確認したい項目になります。2024年の試験結果は機構を理解する手掛かりですが、個別現場の配合、注入量、施工速度、価格や環境安全性を決める資料ではありません。
積水化学の発表が掲げるのは、2027年度下期の実用化目標。これは確定した発売日や承認取得日ではありません。公開時にはPoC(概念実証)、共同開発、仕様や規格について新しい発表がないか、改めて確認する必要があります。積水化学工業・今後の展開
この技術の現在地は、自然に学んだ材料の仕組みと、特定の地下岩盤での長期試験を土台に、用途を広げる検討を進めている段階です。試験条件と将来用途を分け、材料・施工・検査を一つの組として評価することが、現場での可能性を正確に読む助けになります。

