型枠は、コンクリートが固まったら外すもの——建築の現場では、それがあたりまえだった。せき板と支保工をいつ外せるかは、試験でも繰り返し問われてきた頻出論点だ。ところが、その前提を外した構造方法が、2026年6月15日に建築基準法の告示として位置づけられた。
積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造。建設用3Dプリンターでモルタルを積層して造形した型枠を脱型せず、その空洞部に鉄筋を配してコンクリートを充填し、型枠ごと構造体にしてしまう構造である(令和8年国土交通省告示第693号)。
規制改革から、令第80条の2の「特殊の構造方法」へ
きっかけは規制改革だった。規制改革実施計画(令和5年6月16日閣議決定)で、国土交通省はデジタル時代の建築規制のあり方を検討会で議論するよう求められた。これを受けて設置された3Dプリンター対応検討委員会(委員長:名城大学 寺西浩司教授)が論点整理を行い、令和6年8月に報告書「建設用3Dプリンターを利用した建築物に関する規制の在り方について」がまとまる。そこで示された**「小規模建築物を対象としたモルタル型枠に関する仕様基準の新設」**が、今回の告示の直接の出口である(技術的助言 国住指第150号)。
新設告示は、建築基準法施行令第80条の2第一号の規定に基づき、鉄筋コンクリート造の建築物又は建築物の構造部分で**「特殊の構造方法」によるもの**として定められた。したがって令第3章第6節(鉄筋コンクリート造)の規定が適用される。つまり、この構造方法で建てるときに確かめるべき条件が、告示の条文として一覧できる形になったということだ。
ただし万能ではない。技術的助言は、積層造形型枠一体型鉄筋コンクリートを用いた構造は柱等には用いることができず、耐力壁、基礎ばり、床版及び屋根版、壁ばりに限って使用されると明記している。壁式であって、ラーメンではない。
「一体化しているか」の判定は、終局強度と剥離で見る
この構造の肝は、モルタル型枠と中詰めコンクリートが本当に一体で働くのか、という一点にある。技術的助言はその判断基準をこう置いた。
- 耐力壁の終局強度が、鉄筋コンクリート造のものと比べて同等以上であること
- 終局強度に到達する前に、積層造形型枠がコンクリートから剥離・脱落しないこと
材料側の縛りも具体的だ。型枠に使うモルタルの材料は、凝結及び硬化を妨げるような酸、塩、有機物又は泥土を含まず、耐久性上支障のある断面の欠損や強度低下を生じるおそれのないものとされた。なお、このモルタルは法第37条の指定建築材料としては定めていない。
強度の確かめ方が現場的で面白い。モルタルの設計基準強度は一体化するコンクリートの設計基準強度以上とする。実強度は、積層造形型枠から切り取ったコア供試体、またはこれに類する強度特性を有する供試体(当該積層造形型枠の造形工程と同一の造形工程で造形された造形物から切り取ったものに限る)で確かめ、その圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値以上であることを、造形された日から91日以内に確認する。試験方法は昭和56年建設省告示第1102号 第2第二号の強度試験に準ずる。特別な調査・研究に基づき同等以上の強度確保を確認する場合は、この限りでない。
型枠そのものにも品質要件がある。寸法や製造条件が適切に管理され、構造耐力上有害な亀裂、欠け、反りその他の欠陥がないこと。積層造形の宿命であるレイヤー間の欠陥を、そのまま構造の欠陥として扱う書き方になっている。
数字で決まった仕様
告示と技術的助言が定めた主な数値を並べる。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 規模 | 階数1/延べ面積200㎡以内/階高3.5m以下 |
| コンクリートの設計基準強度 | 18N/mm²以上(構造耐力上主要な部分) |
| 基礎ばり | 鉄筋コンクリート部分の厚さ12cm以上 |
| 床版・屋根版(共通) | 積層造形型枠一体型鉄筋コンクリートを用いた構造又は鉄筋コンクリート造とし、水平力を床版は基礎ばりへ、屋根版は耐力壁及び壁ばりへ構造耐力上有効に伝えられる剛性・耐力をもつ構造 |
| 床版の厚さ | 鉄筋コンクリート部分の厚さ8cm以上、かつ短辺方向における有効張り間長さの1/40以上(屋根版には課されない) |
| 耐力壁 | 鉄筋コンクリート部分の厚さ12cm以上/縦筋・横筋の鉄筋比0.15%以上(プレキャスト鉄筋コンクリートを含む場合0.2%以上)。鉄筋比は、積層造形型枠の断面積とコンクリートの断面積の合計に対する鉄筋の断面積の合計の割合 |
| 耐力壁にプレキャスト鉄筋コンクリートを含む場合 | 上記に加え、耐力壁の中心線により囲まれた部分の水平投影面積は60㎡以下/頂部及び脚部に径12mm以上の鉄筋を配置 |
| 壁ばり | 鉄筋コンクリート部分の丈45cm以上/複筋ばり/主筋は径12mm以上/あばら筋比0.15%以上(プレキャストを含む場合0.2%以上) |
| 壁量 | 張り間方向・桁行方向それぞれで、耐力壁の長さの合計を床面積で除した数値(単位:1m²につきcm)が12以上 |
| 接合部(プレキャスト鉄筋コンクリートを含む構造とする場合のみ) | 使用するモルタルの設計基準強度18N/mm²以上/耐力壁相互の鉛直方向の接合部はウェットジョイントとし、径9mm以上のコッター筋で構造耐力上有効に接合 |
ここでいう階高は、床版の上面から、構造耐力上主要な壁と屋根版が接する部分のうち最も低い部分における屋根版の上面までの高さと定義されている。
壁量の「12以上」には緩和があり、①耐力壁の厚さが12cmを超える場合 ②地震地域係数Zが1.0未満の地域 ③耐力壁に使用する積層造形型枠のモルタル又はコンクリートの設計基準強度が18N/mm²を超える場合 のいずれかに当たるときは、7を下限としてそれぞれの定める数値(複数該当するときはその積)に12を乗じた値まで下げられる。③で用いる数値は「18を使用するコンクリートの設計基準強度で除した数値の平方根」であり(1/2の平方根が下限)、割る相手はモルタルではなくコンクリートである点に注意したい。なお、耐力壁の実況に応じた加力実験により破壊の状況を確かめ、かつ特別な調査又は研究の結果に基づいて安全上支障がない数値を定めた場合は、その数値によることもできる(加力実験と調査研究の両方が要る)。
もう一つ、用語の使い分けがある。告示第7に出てくる耐力壁の「厚さ及び長さ」は、構造部材として使用する積層造形型枠の厚さを含む厚さ及び長さとする。一方、表に挙げた「鉄筋コンクリート部分の厚さ12cm以上」は、積層造形型枠内に充填する鉄筋コンクリート部分の厚さを指す。緩和①の「厚さが12cmを超える」は前者、すなわち型枠込みの厚さである。型枠が構造体になるという考え方が、寸法の数え方にも通っている。
基礎ばりの12cmは令第38条第4項および平成12年建設省告示第1347号第2に規定する構造計算によって、床版の8cmは令第77条の2第1項ただし書に規定する構造計算によって、それぞれ低減できないとされている点にも注意したい。
試験ではこう問われる/現場ではこう効く
試験でこの告示がそのまま出題されるのは、まだ先だろう。だが効いてくるのは周辺の定番論点の理解が試される形である。せき板・支保工の存置期間、型枠の設計、コンクリートの設計基準強度と調合、壁式構造の壁量、あばら筋比、複筋ばり——本告示の条文は、これらの用語で構成されている。裏返せば、「なぜ型枠を外すのか」「なぜ壁量が要るのか」を説明できる人ほど、この構造の条件がすっと入る。逆に暗記だけで通り抜けた人には、数字の羅列にしか見えない。
現場で当面効くのは、確認申請まわりの一点だ。この告示の対象は法第6条第1項第三号の規模だが、技術的助言は、確認の特例を定める平成19年国土交通省告示第1119号に新設告示を指定していないため、建築確認等で新設告示への適合を確認する必要があると釘を刺している。小規模だから特例で流れる、とは考えないほうがいい。
もう一点、施工管理として押さえるべきは造形から91日以内のコア採取・圧縮強度確認である。型枠を「刷る」工程が、そのまま構造体の品質記録を残す工程になった。どの造形工程の造形物から切り取ったコアか——そのトレーサビリティが取れていなければ、確認そのものが成立しない。脱型検査が消えた代わりに、造形記録の管理が増えたと考えるのが実務的だろう。
なお技術的判断にあたっては、国土技術政策総合研究所から公表される「積層造形型枠一体型壁式鉄筋コンクリート造告示に対する解説(案)」を参考にするよう、技術的助言が案内している。

