工法をどちらにするか決めるとき、現場では今でも「どっちが安いか」が最初に来る。ところが安いほうを選んだ結果、型枠工が集まらず、波浪待ちで工程が伸び、週休二日が崩れる──という経験は、海側の工事をやったことがある人なら心当たりがあるはずだ。
国土交通省港湾局は2026年9月1日、「港湾工事におけるプレキャスト工法導入検討マニュアル」を第2版へ改訂したと発表した(国土交通省)。同時に、導入検討の参考となる既往事例を整理した事例集も公表されている(港湾局)。
改訂の中身は地味だが、扱っているのは「工法選定を、どういう物差しで、どういう手順でやるか」という、施工管理のど真ん中の話である。
令和5年7月の試行版が、策定から3年で手直しされた
このマニュアルは、港湾工事の働き方改革・担い手確保・生産性向上を図るため、令和5年(2023年)7月に試行版として策定・公表され、工事と設計業務での活用が始まったものだ。令和7年度に現行マニュアルの課題抽出が行われ、学識経験者や業界団体等が参画した検討会を経て、令和8年(2026年)9月にマニュアル(試行版)第2版として一部改訂された(改訂概要)。
中心にあるのが VfM(Value for Money) による評価である。従来の経済性比較にとどまらず、省力化・工期短縮・労働環境の改善といった「お金以外の価値」まで含めて総合評価し、点数の高いほうの工法を採る。
導入検討のフローはこうなっている。
- 条件の整理 — 基本条件(事業費、供用開始時期)/現場条件(冬季の低気温、潮位差や波浪等による作業制限)/調達条件(生コン工場の位置、繁忙状況、技能者の確保等)/施工条件(施工スペースの確保、起重機船の使用可否、安全性)/維持管理条件(隣接含む施設の利用状況等)
- プレキャスト工法と現場打ち工法の適用性比較
- 両工法とも導入の可能性がある場合に VfMによる評価
- 最高評価点の工法を採用
条件の並びを見ると、港湾工事の工法選定が「構造の話」ではなく「段取りと調達の話」であることがよく分かる。生コン工場が近いか、起重機船が使えるか、潜水士を確保できるか。ここで勝負が決まる。
直したのは“死に点”──費用50点 対 費用以外50点が崩れていた
第2版の背景として、改訂概要は既往の適用事例で起きていた不具合をはっきり書いている。効果が認められないと見込まれる評価項目の標準配点を、他の評価項目に割り振らないまま放置したため配点が宙に浮く“死に点”が生じ、その結果「費用①」と「費用以外②〜⑦」が必ずしも同じ50点同士で比較されていない案件が散見された、というものだ。
配点の骨格は、費用①が50点、費用以外の②〜⑦の合計が50点、合わせて100点。費用以外は次の7大項目のうち②以降にあたる。
| 大項目 | 内容 |
|---|---|
| ① | 費用(コスト縮減) |
| ② | 省人化・省力化(人材不足解消への貢献、働き方改革への寄与) |
| ③ | 構造性(構造の信頼性や品質の確保) |
| ④ | 工期(生産性向上) |
| ⑤ | 維持管理(補修・修繕のしやすさ) |
| ⑥ | 施工への影響(労働災害減少への貢献 ほか) |
| ⑦ | 第3者への影響(地域活性化・負担軽減) |
改訂概要が挙げる例では、「工事書類の削減、管理の効率化」「週休二日の実現性」と大項目⑤維持管理を該当なしとした結果、残る②14点・③4点・④16点・⑥8点・⑦8点でちょうど50点に組み直されている。つまり「該当なし」にした分は消すのではなく、生きている項目へ配り直す。ここを機械的にやらないと、費用側だけが相対的に重くなり、はじめからプレキャストが不利になる。
もう一点、効果の有無を0/1で設定するルールも明示された。現場打ち・プレキャストのいずれにも効果が同程度に認められる場合は「1,1」と設定する。「0,0」と設定してはならない。どちらにも効果が認められないのなら、それは評価項目から外し、配点表全体を見直せ、という整理である。
VfMを回さなくていい場合が、明文化された
実務的に効くのが改訂ポイント③だ。適用性比較の段階で、現場条件等から明らかに有利な工法がある場合は、必ずしもVfM評価を行う必要はないと明記された。その「現場条件等からプレキャスト工法が明らかに有利な場合の例」も充実した。以下は原典が挙げる7例からの抜粋である。
- 型枠工や鉄筋工、潜水士等の専門技能者の確保が見込めない場合
- 波浪による型枠の崩壊や、打設したコンクリートの洗掘が懸念され、施工が困難と判断される場合
- 供給可能な生コン工場が限られ、打設量に対する供給量の不足が懸念される場合
- アジテーター車の運搬経路が防波堤上にあるなど、施工時の安全性が十分に確保できない場合
- 海象条件や漁期との関係で潮間作業が多い、あるいは海上施工可能期間が短い場合
さらに改訂ポイント⑤として、設計段階で入手できない条件(資機材の調達条件、製作ヤードの候補地の有無など)で評価せざるを得ない場合は、その旨を記録して施工段階へ申し送ること、VfM評価で項目の選定・効果の有無の判定に至った経緯や根拠を記録・保存することが留意点に追記された。評価の結論だけでなく、途中の判断を残せという話である。
導入促進の試行も2類型が示されている。工法選択の余地がある設計・発注前の案件を対象にVfMで工法を選ぶ Type1、すでに現場打ちを選定済みの工事でプレキャストへの変更余地を検討する Type2 で、Type2では工事品質確保調整会議において受発注者協議で試行可否を選定し、プレキャストが有利であれば協議のうえ設計変更する、とされている。
試験ではこう問われる/現場ではこう効く
試験では、港湾のプレキャストは「部材が大きい・海上作業・据付精度」という切り口で繰り返し出る。ケーソンの製作・進水方式、ケーソン式混成堤の施工手順、防波堤の施工、そしてプレキャスト部材の接合(PC鋼材の緊張、機械式継手、目地部の処理)が定番だ。今回のマニュアルはそれ自体が出題されるものではないが、なぜプレキャスト化が推されるのかという理由づけ(技能者不足、海上施工可能期間の短さ、生コン供給の制約)は、そのまま設問の選択肢の背景になっている。逆に言えば、この背景を押さえておくと「適当でないもの」を消去法で切りやすい。
現場では、比較検討書の書き方が変わる。第2版の要求を一言でいえば「配点表の空欄を放置しない」「効果ゼロ同士を並べない」「根拠を残す」。工法比較を出すときに、該当なしにした項目の点をどこへ回したかが説明できるか。設計段階で分からなかった条件を、施工段階へ申し送る形で書き残しているか。VfMは港湾の枠組みだが、この3点は港湾以外の工法比較でもそのまま通用する作法である。

