「危険な現場ほど人手が要る」という矛盾に、DXで挑む
2026年7月10日、国土交通省は「砂防関係事業の遠隔・自動施工の推進のための検討会」を7月15日に開くと発表した。副題は「SABO×DXのさらなる推進を目指して」。砂防の現場は、急峻で狭い山間部や活動中の火山地域など、そもそも人や重機が近づくこと自体が危険な場所が多い。土砂災害が頻発・激甚化する一方で、建設業の担い手は先細りしていく——この矛盾を、施工の遠隔化・自動化で解こうという動きだ。
検討会は6月に初会合を開き、砂防工事・地すべり対策工事・急傾斜地対策工事の3分野を対象に、(1)ICT施工、(2)施工データの活用、(3)遠隔施工、(4)施工の新技術、という4つの切り口で議論を進めている。8月の第3回会合で中間案をまとめ、2026年度内にはロードマップを盛り込んだ提言として取りまとめる予定だ(日本工業経済新聞)。単発の号令ではなく、工程表付きの実装計画に落とし込もうとしている点が今回の肝である。
無人化施工は「30年の蓄積」がある──雲仙・普賢岳から
「遠隔・自動」というと最新技術のように聞こえるが、砂防の無人化施工には30年を超える歴史がある。噴火で火砕流や土石流が繰り返し発生し、人が立ち入れなくなった雲仙・普賢岳(長崎県)で、平成6年(1994年)10月に本格的な無人化施工が始まった。オペレーターが安全な場所から遠隔操作で重機を動かし、まずは土石流でたまった土砂を取り除く「除石工事」から適用された。
その後、技術は構造物づくりにまで広がる。水無川の1号砂防堰堤では、堰堤本体で世界初となる無人化施工によるコンクリート打設が実現し、そのためにRCC工法(流動性の低い硬練りコンクリートで構造物を築く)やCSG工法(現地の土砂・砂礫にセメントを混ぜて締め固める堤体材料)が新たに開発された。通信も、当初の特定小電力無線や50GHz帯の簡易無線から、いまは無線LANによる制御が主流になり、長距離無線LANや人工衛星を使う実証まで進んでいる。無人化施工は「特殊な災害復旧の裏ワザ」から、標準的な選択肢へと育ってきた。
ただし課題もはっきりしている。遠隔操作はカメラ越しの限られた視覚情報で機械を動かすため、オペレーターが直接乗り込む有人施工に比べて作業効率が落ちやすいことが、一般に課題として指摘される。だからこそ今回の検討会は、「遠隔(人が離れて操作する)」の先にある「自動(機械が自ら段取りを判断する)」までを射程に入れている。
「遠隔」から「自動」へ──i-Construction 2.0が背中を押す
背景には、国交省が2024年4月16日に策定した「i-Construction 2.0」がある。2040年度までに建設現場の省人化を「少なくとも3割」進め、生産性を1.5倍に高めることを掲げ、(1)施工のオートメーション化、(2)データ連携のオートメーション化、(3)施工管理のオートメーション化、の3つを柱に据える。人が重機に乗る前提を、そもそも問い直す方針だ。
砂防でも、3次元設計データでバックホウの動きを誘導するマシンガイダンス、ドローンによる出来形管理、さらには重機の自律走行の実証が動き始めている。遠隔操作は「人の代わりに機械が現場に立つ」段階、自動化は「機械が自分で段取りを決める」段階。今回の検討会は、この二段ロケットを砂防・地すべり・急傾斜地という“最も危険な現場”から社会実装しようとしている、と読むと分かりやすい。
試験ではこう問われる/現場ではこう効く
試験の観点:砂防堰堤・地すべり防止工・急傾斜地崩壊防止工は、1級・2級土木施工管理技士の学科で毎年のように問われる定番だ。堰堤の基礎処理や袖の勾配、地すべりの抑制工と抑止工の区別、急傾斜地の擁壁・法枠といった基本は、施工の手段が自動化されても評価の考え方は変わらない。あわせて、情報化施工(TS・GNSSを用いた盛土の締固め管理など)やICT・マシンコントロールは近年の頻出テーマで、遠隔・自動施工の位置づけを押さえておくと得点源になる。
現場の観点:無人化・遠隔化は「人が入れない場所でも工事を止めない」ための備えであると同時に、平常時の担い手不足への保険でもある。一方で、通信の途絶・遅延、機械の位置精度、有人施工と比べたときの生産性をどう補うかは実務の壁だ。年度内の提言に、工事費の積算や品質確認(出来形管理)の考え方がどう盛り込まれるかは、砂防に関わる施工管理者がこれから注視しておきたい論点になる。
出典
- 国土交通省「砂防関係事業の遠隔・自動施工の推進のための検討会を実施します〜SABO×DXのさらなる推進を目指して〜」(令和8年7月10日)
- 日本工業経済新聞「【砂防事業】施工の自動化を推進/26年度内に提言まとめ」
- 一般社団法人九州地方計画協会「無人化施工技術等及び土石流・溶岩ドーム監視技術の変化〜雲仙砂防事業のこれまでとこれから〜」
- 国土交通省「「i-Construction 2.0」を策定しました」(令和6年4月16日)

