7月に入り、現場の暑さがいよいよ本格化します。職場の熱中症対策は、これまでの「努力義務・心がけ」から一歩進み、2025年(令和7年)6月1日施行の改正労働安全衛生規則で事業者の法的義務になりました。2026年の夏は、その義務化2年目です。とりわけ建設業は、屋外・重装備・長時間という条件が重なり、熱中症による死亡災害が業種別でワーストという現実があります。何が義務になり、現場では何をすれば足り、試験ではどう問われるのか——いま一度、事実ベースで整理します。
背景:建設業は熱中症「死亡災害」のワースト業種
まず数字から押さえます。厚生労働省が2025年(令和7年)5月30日に公表した確定値によると、2024年(令和6年)の職場における熱中症の死傷者(死亡・休業4日以上)は1,257人で、前年から151人増(約14%増)と過去最多を更新しました。このうち死亡者は31人です(厚生労働省)。
業種別に見ると、死傷者数は製造業と建設業の2業種で全体の約4割を占めます。さらに重要なのが死亡者の内訳で、建設業が10人と業種別で最も多く、次いで製造業の5人と続きます(同・厚生労働省確定値)。つまり建設業は、死傷者数が多いだけでなく、最も悪い結果である死亡者数が業種別でワーストという業種です。建設業労働災害防止協会(建災防)も、屋外作業の多い建設業では例年熱中症が多発し、重篤化して死亡に至る事例が後を絶たないと注意を促しています(建災防)。この「死亡災害ワースト業種」という立ち位置が、ルール強化の背景にあります。
何が義務になったのか──2025年6月施行の改正安衛則
改正労働安全衛生規則(第612条の2)が事業者に求めるのは、大きく①体制整備 ②実施手順の作成 ③関係者への周知の3つです(厚生労働省)。
対象となるのは、WBGT値(暑さ指数)28度以上、または気温31度以上の作業場で行われ、連続1時間以上、または1日4時間を超えて実施が見込まれる作業です。この条件に当てはまる現場では、次の準備をあらかじめ整えておく必要があります。
- ①報告体制の整備:作業者が自分の熱中症の自覚症状に気づいたとき、あるいは具合の悪そうな仲間を見つけたときに、ためらわず**「報告できる」連絡先・担当者**を決めておくこと。
- ②実施手順の作成:熱中症のおそれのある人を把握したら、迅速・的確に動けるよう、作業場ごとに**(a)作業からの離脱(b)身体の冷却(c)必要に応じた医師の診察・処置(d)症状悪化を防ぐためのその他の措置**の内容と手順を、あらかじめ定めておくこと。
- ③周知:①②を、関係する作業者に知らせておくこと。
罰則も設けられています。この義務に違反した場合、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となり得ます(両罰規定により法人にも罰金が科されることがあります)。「気をつけよう」というスローガンではなく、準備・手順・周知という形に残る対応が求められている点が、従来との大きな違いです。
2026年の新ガイドライン:「見つけて冷やす」から「出させない」へ
義務化2年目に向けて、考え方もさらに前へ進みました。厚生労働省は2026年(令和8年)3月、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」を策定し、従来の「職場における熱中症予防基本対策要綱」を統合・更新しました(厚生労働省)。
ポイントは、対策の重点が**「早期発見と措置」だけでなく「発症そのものの抑制」まで広がったことです。具合が悪くなった人を見つけて冷やす——という事後対応に加え、そもそも発症者を出さない**ための作業環境・作業計画づくりを正面に置く方向性です。現場の打ち手としては、以下のような基本が改めて重視されます。
- WBGTの測定と活用:感覚ではなく数値で危険度を判断し、値に応じて休憩や作業中止を判断する。
- 暑熱順化:体が暑さに慣れていない作業初日や、休み明け・長雨明けは特に危険。数日かけて作業時間・強度を上げ、体を慣らす計画にする。
- こまめな水分・塩分補給と休憩:のどが渇く前に。冷却用の氷・アイススラリーなども有効。
- 単独作業を避ける(バディ制)・巡視・連絡体制:異変に早く気づける見守りの仕組みを現場に組み込む。
これらは目新しい裏ワザではありません。しかし「義務」と「死亡ワースト」という現実を踏まえれば、段取りの一部として標準化されているかが問われます。
試験ではこう問われる/現場ではこう効く
試験では、安全衛生は1級・2級を問わず施工管理技士試験の必出分野です。熱中症は「作業環境管理」「健康管理」の文脈で問われやすく、WBGT(暑さ指数)という用語、暑熱順化の考え方、休憩・水分補給・作業時間管理といった具体策が論点になります。記述式(第二次検定の経験記述など)では、自分の現場で講じた暑さ対策と安全管理上の工夫を具体的に書けるかが差になります。また、こうした措置を「誰が」整えるのかという観点では、統括安全衛生責任者をはじめとする安全衛生管理体制の役割と一体で理解しておくと、関連問題に強くなります。
現場では、義務化2年目だからこそ「去年作った手順が形だけになっていないか」の点検が要です。報告体制の連絡先は最新か、新規入場者や協力会社にも周知が届いているか、WBGT計は機能しているか、暑熱順化を考えた作業初日の段取りになっているか——。建設業が死亡災害ワーストである以上、熱中症対策は安全管理計画・施工計画の一部として組み込むべきテーマです。準備と周知を「記録に残る形」で回しておくことが、作業者を守り、同時に事業者を罰則リスクから守ることにつながります。
出典
- 厚生労働省「令和6年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)を公表します」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58389.html
- 厚生労働省「職場における熱中症の予防について」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei33/
- 建設業労働災害防止協会「熱中症予防対策(各種労働災害防止運動の展開)」 https://www.kensaibou.or.jp/public_relations/various_canpain/preventing_heat_illness/index.html

