「盛土」は、土木・建築のどの現場にもある最も基本的な作業です。その盛土が、いま全国一律のルールで厳しく管理される時代に入りました。きっかけは2021年の熱海土石流。これを受けて生まれた盛土規制法は、2023年の施行から段階的に各地で運用が始まり、2026年は全国で規制区域の指定がほぼ出そろう節目の年になります。北海道でも7月1日から運用が始まります。
この法律は「災害を防ぐための土の盛り方・締め方」を制度として定めたものでもあり、施工管理技士試験で頻出の土工(締固め・排水・品質管理)と、現場の許可・検査の実務に直結します。要点を整理します。
背景:熱海の土石流が変えた「盛土のルール」
2021年(令和3年)7月、静岡県熱海市で大雨に伴って盛土が崩落し、大規模な土石流災害が発生しました。この災害が、盛土に対する全国的な規制の不十分さを浮き彫りにしたことが、法改正の直接の引き金です(国土交通省「盛土規制法について」)。
従来の「宅地造成等規制法」は、あくまで宅地の造成を対象とした法律でした。そのため、農地や森林に積まれた盛土、あるいは建設発生土の不適切な堆積などは規制の網からこぼれやすく、土地の用途や所管によって規制に「すき間」が生じていました。
そこで国は同法を抜本改正し、名称も**「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)」へ。令和4年(2022年)5月27日に公布、令和5年(2023年)5月26日に施行されました(国土交通省・公布のお知らせ)。ポイントは、「宅地・農地・森林等の土地の用途にかかわらず」、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制**するようになったことです。
何が変わったのか:全国一律の区域指定と許可制
新法の骨格は、都道府県知事等が2種類の規制区域を指定し、その区域内の盛土・切土・土石の堆積を許可制で管理する、という仕組みです。
- 宅地造成等工事規制区域:人家が集まる市街地・集落とその周辺で、盛土等が崩れれば住宅などに被害が及びうる区域。
- 特定盛土等規制区域:市街地などからは離れていても、地形などの条件から、盛土等が崩れれば下流の人家等に被害が及びうる区域。
この区域指定は各都道府県で順次進められてきました。国土交通省が公表している施行状況では、令和7年(2025年)4月1日現在と6月1日現在の指定状況がまとめられており、4月1日以降に区域を指定した自治体が多かったことが示されています。つまり2025年に入って区域指定が一気に進んだ、というのが全国の状況です(盛土規制法の施行状況)。
地域差もあります。たとえば北海道では54市町村で、令和8年(2026年)7月1日から規制が始まります。規制開始時にすでに工事中の場合は、工事主が規制開始日から21日以内に届出を行う必要があります(北海道・盛土規制法)。自分の現場が「いつから・どの区域に」かかるのかは、都道府県・市町村ごとの指定状況を必ず確認しておく必要があります。
違反への抑止も強化されました。土地所有者等には盛土を安全な状態に維持する責務が明確化され、危険な盛土については土地所有者だけでなく原因行為者にも是正措置等を命令できます。罰則も重く、懲役3年以下・罰金1,000万円以下、法人重科は3億円以下と定められています(公布のお知らせ)。
試験ではこう問われる:締固め・最適含水比・品質管理方式
盛土規制法が求めるのは、ひとことで言えば「崩れない盛土をつくり、それを維持すること」です。そして崩れない盛土の条件は、施工管理技士試験で繰り返し問われてきた土工の基本と重なります。盛土を層状に分けてローラー等で締め固める、排水施設で地下水位の上昇を防ぎ浸透水を排除する、必要に応じて擁壁や地盤改良で安定させる――こうした土工のセオリーが、そのまま「災害を起こさない盛土」の条件だからです。法は、地形・地質等に応じた安全基準への適合を許可の条件として求めています。
試験で狙われる典型論点を押さえておきましょう。
- 品質管理の2方式:工法規定方式(まき出し厚や締固め回数といった「手順」で管理)と品質規定方式(締固め度=現場密度で「結果」を管理)の違いは定番の引っかけです。現場密度の測定には砂置換法やRI計器が用いられます。
- 最適含水比:盛土が最もよく締まるのは、最大乾燥密度が得られる含水比(=最適含水比)付近である、という点。
- 段切り:傾斜地に腹付け盛土をする際、斜面を階段状に掘削し、新旧の土が滑るのを防ぐ処置。締固め機械が走れる幅の確保も問われます。
実際に2級土木では、「工法規定方式は盛土の締固め度を規定する方法である」といった記述の正誤を問う設問が出題されています(締固め度で結果を規定するのは品質規定方式であり、ここが誤り)。盛土規制法は、こうした基礎知識を法律の要求事項として裏打ちしたものだと捉えると、暗記が「なぜそうするのか」に変わります。
現場ではこう効く:許可・中間検査・完了検査と「既存の盛土」
現場目線で最も大きいのは、規制区域内で一定規模以上の盛土・切土・土石の堆積を行うには知事等の許可が必要になり、施工の各段階で行政のチェックが入る点です。許可後は、施工状況の定期報告、排水施設の設置や地盤の締固めといった段階での中間検査、そして工事完了時の完了検査が課されます(盛土規制法について)。
実務上は、次の3点を早めに動かしておくのが安全です。
- 受入地・土捨て場の確認:建設発生土の搬出先が規制区域に指定されていれば、その堆積にも許可・基準がかかります。残土処理の計画段階で区域指定の有無を確認しておく。
- 品質管理記録の作り込み:締固めの管理は、検査や定期報告で説明できる記録が前提になります。まき出し厚・締固め回数・現場密度といったデータを工程に沿って残す。ここで効くのがTS・GNSS締固め管理で、面的に締固め回数を管理し、施工と同時に記録が残るため、行政への報告負担も軽くなります。
- 既存盛土の点検:新設だけでなく、すでにある盛土も土地所有者の維持責務の対象です。自社が管理する敷地や受入地に古い盛土がある場合は、排水状況やのり面の変状を点検しておく。
工程管理の観点では、許可取得や中間検査の段取りを着工前の工程に織り込むことが重要です。検査待ちで盛土の締固めが止まれば、後続工程が連鎖して遅れます。区域指定が出そろう2026年は、「いつ・どの検査が入るか」を前提にした工程の引き直しが必要になる現場が増えるでしょう。
まとめ
盛土規制法は、熱海の災害を教訓に「危険な盛土を全国一律で規制する」ための法律です。2026年は区域指定がほぼ出そろい、北海道も7月から運用を開始します。求められる中身は、締固め・排水・擁壁といった試験頻出の土工そのものであり、現場では許可・中間検査・完了検査という形で実務に落ちてきます。基礎を固めることが、そのまま試験対策にも現場の安全・コンプライアンスにもつながる――そんな法律です。
出典
- 国土交通省「盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)について」 https://www.mlit.go.jp/toshi/web/morido.html
- 国土交通省「『宅地造成等規制法の一部を改正する法律』(盛土規制法)が公布されました」 https://www.mlit.go.jp/toshi/toshi_tobou_tk_000076.html
- 国土交通省「盛土規制法の施行状況」 https://www.mlit.go.jp/toshi/morido-sekou.html
- 北海道「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」 https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kn/tki/morido_kisei_top.html

