型枠を組まず、ロボットアームがコンクリートを少しずつ積み上げて壁や柱をかたちづくる——。少し前まで実験室の風景だった 建設用3Dプリンター(3D Concrete Printing、3DCP) が、2026年に入って制度と産学の両面で大きく前進した。3月には国土交通省が出来形・品質確認の参考資料(案)をまとめ、4月には東京大学と企業6社が産学連携の講座を立ち上げた。「型枠の中にコンクリートを流す」ことを前提に組み立てられてきた施工管理に、もう一つの選択肢が現実味を帯びて入ってくる。
型枠を持たない「もう一つのコンクリート施工」
建設現場でコンクリートを打つとき、施工管理の中心にはいつも「型枠」がある。組立・締付け・脱型の管理、スランプや空気量の確認、打継ぎ処理——これらはすべて「型枠の中にコンクリートを流し込む」という前提で体系化されてきた。
建設用3Dプリンターは、その前提を外す。コンピュータ上の設計データを受け取り、ロボットアームがセメント系モルタルを一層ずつ積層して構造物を立ち上げる。型枠を必要とせず、曲面や複雑な形状も一体で造形でき、省人化や工期短縮にもつながる技術として、国内外で実証が重ねられてきた。とはいえ、その品質をどう測り、どう合否を判断するのかという「ものさし」は長く定まらず、現場は試行錯誤の段階にとどまっていた。
ここで思い出したいのは、コンクリートの品質を支える基本が、施工法を問わず共通だという点だ。仕様を満たす材料を、定められた配合と管理のもとで打ち込む——この品質規定方式の考え方は、3Dプリンターで使うセメント系モルタルにも変わらず効く。新しいのは「つくり方」であって、「品質を確保する」という目的そのものではない。
2026年3月、国交省が「確認のものさし」を整えた
転機の一つが、2026年3月16日だ。国土交通省 大臣官房技術調査課は「建設用3Dプリンタによる造形物の出来形及び品質の確認に関する参考資料(案)」を策定したと公表した。直轄土木工事でもセメント系材料を使った造形の適用事例が増えつつあるなか、監督職員が出来形・品質をどう確認すればよいか、その基本的な考え方を整理したものだ。
同資料は、3Dプリンターの特徴として「型枠が不要で設計データと連携できる」ことを挙げ、そこから「最適設計の実現」や「省人化・工期短縮等の生産性向上」が期待されるとしている。裏を返せば、型枠のある施工を前提とした従来の出来形管理・品質管理の規定が、そのままでは当てはまらない場面が生じていたということだ。型枠寸法で形状を担保できない以上、「設計データと実際の造形物をどう照合するか」という新しい問いに、確認の手順で答える必要が出てきた。
この参考資料(案)は、土木学会が2025年(令和7年)7月に策定した「建設用3Dプリント埋設型枠を用いたコンクリート構造物の技術指針(案)」を補完する位置づけにある。学会側の技術指針(案)と、発注者側の確認の参考資料(案)が揃ったことで、「施工 → 監督職員による確認」という一連の流れに、ようやく共通のよりどころが生まれた。
東大×企業6社が描く、インフラ更新への射程
制度の足場が整いはじめると同時に、技術を深める産学連携も動き出した。東京大学大学院工学系研究科は2026年4月1日、「建設用3Dプリンタによるコンクリート構造の革新に向けた社会連携講座」を開設した。
参加するのは、大林組・鹿島建設・清水建設・首都高速道路・大成建設・JR東日本の企業6社。石田哲也教授(社会基盤学専攻)を代表に、2026年4月から2029年3月までの3年間、複雑形状の構築・省人化・工期短縮・環境負荷低減を見すえた設計・施工プロセスの変革を共同研究する。2026年5月28日には、東京大学 伊藤謝恩ホールで開設記念のシンポジウムも開かれた。
注目したいのは顔ぶれだ。大手ゼネコン4社(大林・鹿島・清水・大成)に、道路管理者である首都高速道路、鉄道事業者であるJR東日本が加わっている。つくる側だけでなく、構造物を「持ち続ける側」が名を連ねている点に、橋梁・高架橋・トンネル坑口といったインフラの補修・更新への期待がにじむ。老朽化インフラの維持・更新が国家的な課題となるなか、複雑な形状を型枠なしで造形できる3Dプリンターの強みは大きく、その応用は実用の射程に入りつつある。
試験ではこう問われる
施工管理技士の試験で、「コンクリートの品質管理」と「出来形管理」は毎年の頻出テーマだ。建設用3Dプリンターそのものを正面から問う設問はまだ少ないが、その土台となる知識は繰り返し問われている。
まず材料品質。骨材の品質や配合は、施工法が変わっても品質確保の出発点であり続ける(コンクリート用細骨材の品質に関する過去問、コンクリートの品質に関する過去問)。3Dプリンターのセメント系モルタルでも、水セメント比・単位水量・骨材品質といった基本管理の考え方は従来と共通だ。「新技術でも、材料品質の原則は変わらない」という軸を持っておくと、革新期に登場する出題にも崩れず対応できる。
そして、3Dプリンターは単独の技術ではなく、設計データを起点に施工と確認をデジタルでつなぐ建設DXの一部である。TS・GNSSを用いた情報化施工のように、点的な抜取りから面的なデータ管理へと出来形管理が変わっていく流れの延長線上に位置づけて覚えておくと、知識がつながりやすい。
現場ではこう効く(確認の勘どころ)
実務に落とすと、現場の施工管理担当者がまず向き合うのは「造形した構造物をどう検査するか」だ。今回の国交省の参考資料(案)は監督職員向けに整理されたものだが、施工側もこれと整合した管理が求められる。
核になるのは、設計データ(3次元モデル)と実際の造形物の形状を照合する 3D計測による出来形確認 だ。「型枠の寸法で品質を担保する」発想から、「設計データとの差分を計測データで確かめる」発想への切り替えが要る。工場で型に流して精度を出すプレキャストコンクリートとも違い、型を持たないからこそ、出来上がった形そのものを測って評価する管理になる。
加えて、積層造形ならではの観点も生まれる。一層ずつ積み上げる以上、層と層の接着(層間の一体性)や、積層方向と荷重のかかる方向の関係は、強度を左右する焦点になりうる。こうした項目は今後の技術指針の改定を通じて標準化されていく見通しだが、現場としては「何が品質上のポイントになるのか」を今から押さえておく価値がある。
新しい施工技術が現場に入るとき、品質を確かめる体系も同時に育てなければならない——建設用3Dプリンターをめぐる今年の動きは、その当たり前を正面から映している。型枠のないコンクリートが珍しくなくなる日に向けて、施工管理の確認項目に「造形物をどう測るか」という一行が、静かに加わろうとしている。

