毎年「観測史上最高」が更新される夏。建設現場では、暑さ対策がこれまでの「各社の善意・努力」から、**法律と発注制度に裏打ちされた“しくみ”**へと姿を変えつつある。2025年には職場の熱中症対策が罰則付きで義務化され、2026年の夏に向けては、国土交通省が公共工事で「猛暑期間に休める」しくみの試行を広げている。施工管理技士にとって、これは安全管理と工程管理の両方に直結するテーマだ。要点を整理しておきたい。
背景:猛暑の常態化が、現場の「当たり前」を変えた
屋外作業が中心の建設業は、熱中症のリスクが業種の中でも高い。これまでも水分・塩分補給や休憩の確保といった対策は行われてきたが、その多くは現場ごとの裁量に委ねられていた。猛暑が一過性ではなく毎年の前提条件になったことで、国は「努力」ではなく「事業者の義務」「発注者の制度」として暑さ対策を組み込む方向に舵を切っている。
変化①:熱中症対策が「罰則付きの義務」になった
2025年(令和7年)6月1日、改正された労働安全衛生規則が施行された。ポイントは、一定の暑熱環境下での作業に対し、事業者へ具体的な備えを義務づけたことだ。
対象となるのは、WBGT(暑さ指数)28度または気温31度以上の作業場で行われる作業のうち、継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれるもの、とされている。これに該当する作業では、事業者は事業場ごとに次の備えを整え、関係作業者へ周知しなければならない。
- 報告体制の整備:自覚症状がある作業者や、そうした人を見つけた人が、ためらわず報告できる連絡先・担当者をあらかじめ定めておく。
- 対応手順の作成:「作業からの離脱」「身体の冷却」「医師の診察または処置」「緊急連絡網・搬送先の連絡先や所在地」を含む手順を定めておく。
異変に早く気づき、重篤化させずに対処する——その「段取り」を事前に決めておくことが義務の核心だ。これは罰則付きの規定であり、措置を怠れば労働安全衛生法に基づく罰則(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象となり得る。掲示やWBGT計の設置といった“現物”だけでなく、誰が・どこへ・どう動くかという体制と手順まで求められている点に注意したい。
変化②:公共工事が「夏に休める/ずらせる」しくみを試す
もう一つの大きな動きが、発注者側の制度改革だ。国土交通省は2025年(令和7年)12月23日、「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を策定した。これは(1)猛暑期間・時間の作業回避、(2)効率的な施工・作業環境の改善、(3)猛暑対策に必要な経費等の確保、(4)地方公共団体・民間発注者等への周知・要請と好事例の横展開、という4本の柱で構成されている。
なかでも現場の工程に直接効くのが(1)だ。受注者の判断に基づいて猛暑期間を一定期間休工にできるよう、猛暑期間を工期に含む直轄土木工事で試行工事を行い、追加費用の発注時の明示方法や積算方法、必要な取組を把握する、という内容になっている。発注段階で夏のピークを“準休工期間”として織り込み、受注者が休工の要否や期間を選べるようにする狙いで、関東地方整備局など各地方整備局が複数の工事で試行を進めている。
さらに2026年(令和8年)4月28日には、国交省が「猛暑対策の工夫を行う試行工事」を開始すると発表した。屋外作業が多い工事を対象に、入札参加者の技術提案として「猛暑対策」をテーマに設定し、総合評価落札方式のなかで「猛暑下での施工効率化・省人化の具体的方法」や「それによる短縮時間」を客観的・定量的に評価する、というものだ。暑さ対策の巧拙が、安全だけでなく受注の競争力にも直結する時代に入りつつある。
試験ではこう問われる
熱中症対策そのものを直接問う設問はまだ多くないが、土台となる知識は各種目で頻出だ。改正安衛則が求める「報告体制・対応手順」は、安全衛生管理体制に関する過去問(1級土木)や安全衛生管理体制に関する過去問(1級建築)で問われる、統括安全衛生責任者などの体制づくりと同じ発想の延長線上にある。特定の危険・有害作業で誰を選ぶかを問う作業主任者の選任に関する過去問(2級土木)も、「事業者の措置義務」という共通の枠組みで理解しておきたい。WBGT・気温・作業時間といったしきい値の数字は、今後の安全分野で問われる可能性が高いので押さえておこう。工程管理では、山積み・山崩し(平準化)やネットワーク工程表のクリティカルパスといった定番論点に、「真夏のピークを避ける」という新しい制約条件が重なってくる。
現場ではこう効く
実務では、まず安全衛生計画に「熱中症の報告体制・対応手順」を明文化し、連絡先・搬送先・WBGT計の運用を朝礼で周知することが出発点になる。そのうえで工程面では、クリティカルパス上の屋外作業を7月下旬〜8月のピークから外す設計が効く。早朝・夜間シフトや夏季休工を前提に工程表を組み、休工・シフトで延びる工期や猛暑対策経費を、スライド条項や試行工事の枠組みを使って契約に反映させる。発注者が「休む・ずらす」を制度として認め始めたことは、これまで現場が抱え込んでいた板挟み——「工期は動かせない、でも暑さで人が倒れる」——を解きほぐす追い風になる。今夏は、その追い風を実際の段取りに変えられるかどうかが問われる。
出典
- 厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」
- 国土交通省「建設工事における猛暑対策サポートパッケージを策定しました」(令和7年12月23日)
- 国土交通省「猛暑対策の工夫を行う試行工事を開始します」(令和8年4月28日)
- 国土交通省 技術調査:猛暑対策関係

