道路の下を縦横に走る下水道管。ふだん目に入らないこのインフラの老朽化が、いま法律のかたちで「見える化」されようとしている。2026年3月27日、国土交通省は 「下水道法等の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。その後、衆議院本会議で2026年5月26日に可決され、現在は参議院で審議が進められている(参議院 議案情報)。施工管理技士試験でも、現場の実務でも避けて通れないテーマになりつつある「下水道の維持管理」を、今回の改正の中身に沿って整理しておきたい。
八潮の陥没が突きつけた「見えないインフラ」の老朽化
きっかけは、2025年(令和7年)1月28日に埼玉県八潮市で発生した、老朽化した下水道管の破損に起因するとみられる大規模な道路陥没事故だった。生活道路の真下で起きた陥没は、下水道という「地下のインフラ」が壊れると、その上を走る「道路」という別のインフラまで一気に巻き込むことを、まざまざと示した。
国土交通省はこれを受け、2025年3月18日、地方公共団体に対して 「下水道管路の全国特別重点調査」 を要請した。対象は、八潮の事故と条件が近い 「管径2m以上かつ平成6年度以前に設置された下水道管路」。いわば、大きくて古い「幹線級」の管である。優先的に調べるべき区間は全国で約813kmにのぼり、2025年8月時点の集計では、緊急に対策が必要と判定された延長が約72km、地表近くにできた空洞が6か所確認された(うち4か所は対策済み、2か所は早急に対策予定)と公表された(国土交通省 報道発表)。
さらに国交省の「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」は、2025年3月の第1次提言、5月の第2次提言を経て、同年12月1日に第3次提言 「信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換」 を公表。緊急点検・応急対応のフェーズから、平時のマネジメントそのものを作り替える段階へと議論が移った。その帰結が、今回の法改正案である。
改正案の3本柱をかみ砕く
報道発表によると、改正案の柱は大きく3つに整理できる(国土交通省 報道発表)。
① 安全性確保を最優先する下水道マネジメントの確立。 施設の安全性を評価する「診断の基準」を法律に位置づける(法制化)うえで、下水道管理者に維持管理の状況(診断結果など)の公表を義務づける。さらに、下水道の構造について、点検・修繕・改築や、災害・事故時の応急措置のしやすさをあらかじめ考慮することを原則化し、計画的な改築の実施や収支見通しの作成・公表を努力義務とする。「壊れてから直す」事後保全から、「壊れる前に診て備える」予防保全への転換を、制度として後押しする内容だ。
② 道路地下空間の安全性確保。 道路占用者(下水道管理者など)と道路管理者が 「占用物件等維持修繕協定」 を結び、道路や占用物件の点検・修繕を連携して行える制度を新設する。あわせて占用許可制度を見直し、占用許可申請書の記載事項に維持管理に関する事項を加えるほか、道路の地下に埋める占用物件については、工事完了時に竣工図などの提出を義務づける。八潮の事故が「下水道」と「道路」の境界で起きたことを踏まえ、その境界の管理に責任の所在をはっきりさせる狙いがある。
③ マネジメント基盤の強化。 人口減少と職員不足が進むなか、都道府県による広域連携の推進や、市町村に代わって事務を担う代行制度の創設で、小規模自治体でも維持管理を回せる体制を整える。
技術面では、これを支える道具立ても動いている。国交省は2025年10月3日、AI・ドローン・非破壊の地盤探査など45件の新技術を「上下水道DX技術カタログ」に追加した。管路内調査の無人化・省力化、大深度の空洞調査、大口径管の管厚・強度測定、センシングによる継続モニタリングといった分野が並ぶ(国土交通省 報道発表)。「人手で全部は見切れない」現実に、技術で応える流れだ。
試験ではこう問われる
下水道は、土木施工管理技士の専門土木で頻出の分野だ。たとえば剛性管渠(コンクリート管など)の布設では、基礎地盤の土質区分(軟弱土・硬質土・極軟弱土)に応じて、砂基礎・コンクリート基礎・鉄筋コンクリート基礎をどう組み合わせるかが繰り返し問われる(下水道の剛性管渠の基礎に関する過去問)。今回の改正が掲げる「点検・改築のしやすさを考慮した構造」という考え方は、こうした基礎・管種の選定の延長線上にある。
もうひとつ押さえたいのが「道路占用」だ。下水道管の多くは道路の地下に埋設されるため、施工時には道路法令上の掘削ルール(舗装切断は原則として直線・路面に垂直に、掘削土砂を交通の支障となる位置にたい積しない等)が問われる(道路占用工事の道路掘削に関する過去問)。改正案で占用許可の記載事項や竣工図の提出が強化されることは、まさにこの占用ルールの実務的な厚みが増すことを意味する。法令科目では「誰が・何を・いつまでに」という義務の主語と期限を整理して覚えるのが得点の近道だ。
現場ではこう効く
実務の目線で見ると、今回の改正は「記録」と「連携」の二語に集約できる。
第一に、診断結果の公表義務化や竣工図提出の義務づけは、施工段階での記録の質をそのまま上流に響かせる。埋設位置・管種・基礎・出来形を正確に残すことが、将来の点検・診断の前提になる。施工管理技士が日々まとめる出来形管理や竣工図書は、もはや「完成検査のための書類」ではなく、「数十年先のメンテナンスを支えるデータ」だと捉え直したい。
第二に、道路管理者と占用者の協定制度は、掘り返し工事の調整やライフサイクルでの保全を、関係者の連携前提で設計する流れを生む。老朽管の更新では、道路を全面開削せず管内から内張りして再生する管更生工法のような非開削技術の重要性も増す。交通影響を抑えつつ、限られた人員で広い延長を維持する——その解として、DXカタログの新技術と非開削工法の知識は、現場の実務でも試験対策でも価値が高まっていく。
